イチローから「どうします?」。WBC伝説のタイムリーの裏でスコアラーが答えたイム・チャンヨンの狙い球 (2ページ目)
――しかしこの大会では、同じ韓国の奉重根(ポン・ジュングン)投手に苦しめられました。
「実は大会前、彼はまったくノーマークで......。正直、あそこまで苦戦を強いられるとは思いませんでした。日本が勝った決勝戦でも、正直に言うと"出たとこ勝負"という状況だったので、『打てる球を見極めていこう。負けてしまったら申し訳ない』と、選手たちの前で謝ってから試合に臨みました。決勝でもなかなか点が取れませんでしたが、決勝の時は疲労もあって選手の調子が少し落ちていましたね」
2009年のWBCでスコアラーを務めた三井氏この記事に関連する写真を見る――アメリカでの第2ラウンド初戦では、当時から真っ直ぐが160キロを超えていたキューバ代表のアロルディス・チャップマン投手(現ヤンキース)とも対戦しました。今ではMLBを代表するクローザーを、日本は早々に打ち崩して6-0と大勝しました。
「誰も見たことがないような速球だったので、『高めは捨てて、ベルトよりも低めのボールを狙っていこう』と伝えたら、その狙いがハマりました。
当時20歳だったチャップマンはまだ投球が荒かったですから、『塁に出たら、リードを大きく取って足で揺さぶりをかけていこう』とミーティングで伝えたのも効いたように思います。ただ、試合では小笠原(道大)が牽制でアウトになってしまって......。小笠原は『そういう作戦じゃないですか』と言っていましたが、足を使える選手への指示だったので『お前は大丈夫だったんだけど......』という場面もありました(笑)」
――完全に癖がわかっていた投手はいましたか?
「第1回のWBCでも日本戦で登板した、アメリカ代表のジェイク・ピービー(元パドレス、ホワイトソックスなど)の癖はわかりやすかったですね。2007年にサイ・ヤング賞を獲得した力のある投手なのですが、準決勝のアメリカ戦を迎える前に、ストレート、カーブ、チェンジアップなど、投げる時の癖が全部わかっていました。だいぶ前のことなので細かくは覚えていないのですが......球種によってグローブが体から離れるタイミングが違うといったすごく簡単なものだったので、イチローや城島(健司)もビックリしていましたよ。
その準決勝は、3回までに先発の松坂(大輔)が2点を失いましたが、ピービーだけでなく多くの投手の癖がわかっていたので、ベンチの雰囲気は和やかでした。結局、ピービー投手の登板はありませんでしたが、気持ちに余裕があったことで、9-4と逆転できたように思います」
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