野村克也、城島健司、甲斐拓也、そして松川虎生...なぜパ・リーグは高卒出身の「名捕手」が多いのか (4ページ目)
リードは正解がないため比較は難しいが、矢野氏は次のように語る。
「投手中心、打者中心、状況中心の3つを組み合わせるのがリードですが、高卒捕手よりも大卒捕手のほうが、投手を慮る利他主義に一日の長があるように思います。そういう意味で、ベンチは安心して起用できるのかもしれません」
バッティングだが、「高卒1、2年目でプロの投球を打つのは難しい」と矢野氏は言う。そして大学、社会人で強肩、強打の捕手がいれば、やはりドラフトでは人気となり、獲得は容易ではない。
矢野氏がヤクルトのスカウト時代、こんなことがあったという。ヤクルトは古田の後釜として、中央大の後輩でもある阿部慎之助の獲得を狙っていた。肩が強く、なにより打撃が抜群で、捕手以外のポジションでも出場できるということで早い段階からマークしていたが、当時は逆指名制度があった時代。阿部は捕手としてすぐに出場できる可能性が高かった巨人を希望した。
そして矢野氏は、こんな興味深い持論を展開した。
「パ・リーグに高卒の名捕手が多いのは、新人獲得の予算が影響しているのではないでしょうか。今でこそパ・リーグの人気も高まっていますが、ひと昔前はどうしても人気のある選手、知名度のある選手を優先する傾向が高く、なかでも投手を優先的に指名してきました。その分、捕手に回せる予算は少なく、どうしても高校生の指名が多くなった」
前出のパ・リーグの高卒捕手は、入団3〜5年目でレギュラーになっているので、プロ1年目でレギュラーになっている大卒捕手と年齢的に大差はない。同じドラフト上位でも、大卒より高卒のほうが契約金は抑えられる。パ・リーグが積極的に高卒捕手を指名してきたのは、そうした背景もあったのだろう。
「資金に限りがある場合、3〜5年後の将来を見据えて有望選手を指名し、その選手が大活躍してくれるのはスカウト冥利につきます」(矢野氏)
高卒出身の松川は、パ・リーグの「名捕手」の系譜を継ぐのか。これからの松川の活躍が楽しみでならない。
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