「トミー・ジョン手術で球速が上がる」は都市伝説。元中日の吉見一起「完全復活できたわけではなかった」

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Sankei Visual

【短期連載】令和の投手育成論 第3回

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 トミー・ジョン手術の権威として知られる慶友整形外科病院の古島弘三医師は、もともと群馬県立高崎高校で球児だった。執刀医になった今、メスを入れる選手の4割が高校生以下で、なかには中学生で手術が必要になるケースもある。

 大きな決断を下すにあたり、古島医師には必ず確認する内容がある。どのレベルまで野球をしたいのか、という意志だ。

「病院にくる子はだいたいプロを目指しています。アンケートをとると、控え目でも大学生や社会人までプレーしたいという欄に丸をつけてきますね。『ドラフトにかかりそうだったら行くだろ?』と聞くと、『行きたいです』と。その夢を壊さないためにはどうしてあげられるかを第一に考えます」

 たとえ中学3年生で身長が低かったとしても、「プロは無理だろう」と可能性を閉ざすことはしない。「いつか化けるかもしれない」と考えている。

1年におよぶ過酷なリハビリ

 MRIを撮ってヒジの靭帯損傷だと判明しても、程度が軽ければ保存療法で済む。重症な場合、絶対に投手としてプロ野球に行きたいのか、あるいは野手でもいいのか。前者の場合、選択肢として浮上するのがトミー・ジョン手術だ。

「あなたにとってプロになることが夢かどうかという以上に、プロに入って一軍で活躍することが大事でしょ? そうしたら、毎週しっかり投げていかないといけない。プロでは今より数を投げられることが必要になる。プロで先発ローテーションとして活躍するには、このヒジでは厳しいよね」

 古島医師は選手にそのように伝え、プロ入り前にヒジをしっかり治すことを勧める。そして家族で熟考してもらい、手術をするか否かを決定する。

「話をして、ちゃんと受け答えができて、自分の意志をしっかり持ってやっていると感じられる子であれば、手術を勧めてもいいかなと。『リハビリもしっかり頑張ってね。そうじゃないと、うまくいかないよ』と伝えます。トミー・ジョン手術へのハードルは高くしますね」

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