阪神・江越大賀「12球団で一番もったいない選手」返上へ。ラオウ杉本との自主トレで8年目の覚醒となるか

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Koike Yoshihiro

気づいたらもうすぐ30歳...

 スイングを再構築するなかで、江越は自分が大きな勘違いをしていたことに気づいた。

「今までは体が突っ込まないように、『前に行っちゃいけない』と思っていたんです。でも、それだとボールを見に行って、ただ速球に差し込まれるだけでした。それで『頭は(うしろに)残すんだけど、下半身はしっかり打ちにいく』と意識すると、自分のなかでしっくりきたんです」

 速い球には差し込まれ、変化球には泳がされる。そんなかつての江越の姿は、もはやなくなった。

 打席に入っても、以前までのように「結果を残さないと」という悲壮感はない。江越は控えめに笑いながら、こう語った。

「今年は『ダメなら終わりだし、楽しくやろうかな』という感じでやっています。『打ちたい』という欲が強すぎると、僕はどうしても力んじゃうので」

 キャンプ中、さまざまな指導者からアドバイスを受ける機会が訪れる。江越は今までのように素直に助言を聞き入れる一方で、こんな信念を秘めている。

「コーチが言うことも、たとえ杉本さんが言うことであっても、すべてが正解だとは思っていません。いただいた言葉を自分のなかでしっかり考えて、納得して形にしないと。そうじゃないと、調子が悪くなった時に自分で戻せないので」

 回り道はしたかもしれない。だが、江越にはようやくプロ野球選手としての芯が備わってきたのだろう。

 未完の大器も今年でプロ8年目。江越は「気づいたらもうすぐ30歳という感じです」と苦笑しつつ、こう続けた。

「正直言って焦りはあるんですけど、焦っても状況は変わらないので。自分でしっかり考えて、納得した形でやりたい。それでダメならいいかな、という気持ちでいます」

 今年こそ「もったいない」とは言わせない。江越大賀の力感のないタテ振りには、退路を断った男の覚悟が滲んでいる。

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