「僕のなかでベイスターズが最後の球団」。10年ぶり復帰・藤田一也の古巣愛と新たな覚悟

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Sankei Visual

 カメラのフラッシュで視界が遮られる。瞬く光を浴びせられるなか、藤田一也は高揚していた。胸の鼓動を感じ、顔が紅潮している自分を認識していた。

「この2年、取材とかってずっとリモートやったじゃないですか。マスコミの方たちの前に立つのが久しぶりやったんで、めちゃくちゃ緊張したっす」

 あの入団会見を思い返すと声が弾む。

10年ぶりにベイスターズに復帰した藤田一也10年ぶりにベイスターズに復帰した藤田一也この記事に関連する写真を見る

【ベイスターズに戻れたら...】

 昨年12月10日。藤田は10年ぶりに横浜DeNAベイスターズのユニフォームに袖を通した。

 10年の間、DeNAファンの熱気は明らかに上昇している。藤田が東北楽天ゴールデンイーグルスに移籍した2012年の主催試合の観客動員数は116万5933人。新型ウイルスの蔓延以前の19年は228万3524人と、倍近くまで増加した。彼らは世代を問わず、藤田の復帰を手放しで喜んだ。

「いやもう、うれしいっすね、ほんと」

 藤田の声色が、また一段と上がる。

「楽天に行ってからも『ベイスターズのファン、多くなってきたな。盛り上がっているな』っていうのはすごく感じていたので......。10年前の僕を応援してくれたベイスターズファンの声っていうのは、すごくうれしかったです」

 建前などではない。楽天時代から藤田にとってベイスターズとは、プロ野球選手として思い入れのある郷愁の場所だ。

 動画サイトでDeNAの映像を観ていると、ふと目が留まる。

「これ、俺の応援歌やな」

 楽天に移籍したあともベイスターズファンは折に触れ、横浜スタジアムで藤田が在籍時の応援歌を演奏してくれていたのである。すでに敵とはいえ、胸を打たれないわけがなかった。

「『忘れずに俺の曲を吹いてくれてるな』って。ファンの方々もしっかり応援歌を歌ってくれていたのがすごく印象に残っていますね」

 だから......そう言わんばかりに、藤田はあの時に秘めていた想いを、古巣に復帰した今、はっきりと紡いだ。

「自分ではどの球団でもやるつもりでしたけど、そのなかでも『ベイスターズに戻れたら......』って気持ちがありました」

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