社会人時代の恩師が語るラオウ覚醒秘話「背が高くて、スタイルもよくて、モデルみたいだった」 (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Koike Yoshihiro

 語り口は穏やかだが、表情は喜びに満ちている。

「JR時代のチームメイトや、会社の人たちもね......すごく楽しみにしてくれていて、杉本の活躍を誇りにしてくれていると思うんです。それがすごくうれしいですね。それがJRっていうか、社会人野球のいいところですから」

【40歳までやれますよ、きっと】

 入団から5年目まで、放ったホームランはわずか9本。大学、社会人時代にスラッガーとして鳴らした打者なら、心が折れても不思議ではなかったはずだ。それでも努力を続け、昨シーズンの活躍につなげた。

「プロの壁にぶち当たって、迷いも焦りもあったと思うんです。そんななかでも自分を失わず、しっかり練習してきた。これって簡単なことじゃない。でも、プロは1年だけじゃダメです。長く続けて一人前。杉本は体が強いし、ケガにも強い。性格も底抜けに前向きですから、40(歳)までやれますよ、きっと」

 単なる願望だけで言っているようには聞こえなかった。花本監督のなかに確信があるようだった。

「そういえば以前、チームが都市対抗に出た時、東京ドームまでわざわざ応援に来てくれて。まだファームで苦労していた時なのに。どれだけ義理堅いヤツなんだって思いましたよ」

 昨シーズンの"覚醒"の理由については、いろいろと報じられているが、その一因は間違いなく、中嶋聡監督が腹をくくって辛抱強く使い続けたことだろう。

「杉本みたいなタイプは、本来は1試合に1本でいいから"ドカン!"っと打ってくれればいい選手なんですよ。でも、それなら外国人選手のほうがやってくれそうな気がするし、給料も高いからベンチも使わざるを得ない。結果として、杉本のようなタイプは報われずに消えていくケースが多いんです」

 奇跡のような杉本のシンデレラストーリーは、本人の辛抱はもちろんだが、使ったほうはもっと辛抱したに違いない。そうした指揮官と出会えたことも杉本の人徳なのかもしれない。誰からも愛されるキャラクターもまた、杉本の大きな才能なのだろう。

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