ソフトボール界の怪物はプロ野球入りを勧める恩師に「就活の邪魔をしないで」と憤った

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

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連載『なんで私がプロ野球選手に⁉』
第3回 大嶋匠・前編第1回から読む>>

 プロ野球は弱肉強食の世界。幼少期から神童ともてはやされたエリートがひしめく厳しい競争社会だ。だが、なかには「なぜ、この選手がプロの世界に入れたのか?」と不思議に思える、異色の経歴を辿った人物がいる。そんな野球人にスポットを当てる新連載『なんで私がプロ野球選手に!?』。第3回は早稲田大ソフトボール部からプロ野球界に進出した大嶋匠(元・日本ハム)の驚愕ストーリーを紹介する。

大嶋匠(写真右)にプロ入りを強く勧めた早稲田大ソフトボール部監督の吉村正氏大嶋匠(写真右)にプロ入りを強く勧めた早稲田大ソフトボール部監督の吉村正氏 そのフレーズは、いつも「お約束」の冗談だと思っていた。

「おまえは野球をやってプロになろう。メジャーリーグを目指せ!」

 早稲田大学ソフトボール部の主砲・大嶋匠は、監督の吉村正からそう声をかけられるたびに苦笑を浮かべた。大学1年の頃から、ことあるごとに吉村からそんな言葉をかけられていた。はっきりと言ってしまえば、聞き流していた。

 ところが大学3年の時、ソフトボールのワールドシリーズを辞退して日程の重なっていた国体に参加したい希望を吉村に伝えると、大嶋は初めて叱責を受けた。

「おまえはまだそんなことを言っているのか!」

 ソフトボールからプロ野球に挑戦し、大金を手にしろ──。3年間そう伝え続けてきた教え子のスケールの小さな発言に、吉村はもどかしさを覚えていたのだ。

 ヒートアップする吉村とは裏腹に、大嶋には「吉村先生は本気だったのか」という驚きとともに、別の感情が渦巻いていた。

「オレの就職活動を邪魔しないでほしい」

 吉村はソフトボール界の発展に大きく貢献してきた功労者である。早稲田大ソフトボール部をワールドシリーズ制覇に導くなど、その実績は輝かしい。だが、どんなに結果を残してもメディアでソフトボールは大きく扱われず、目立つのは野球ばかり。いつかはソフトボール界から野球界に逸材を輩出することで、ソフトボールの認知度や地位を高めたい。そう考えていた吉村が出会ったのが、大嶋という怪物だったのだ。

 大学4年時には公式戦13試合連続ホームランという離れ業を演じ、大学通算での本塁打数は80本を超える。ずば抜けた打撃だけでなく、肩は強く、足も速い。プロ野球を目指せるとしたら、この選手しかいない。その思いが「プロ野球を目指せ」と大嶋に勧める行動につながっていった。

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