「バカヤロー、こんな球を投げやがって」魔球とともに駆け抜けた安田猛の野球人生 (4ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

 さらに安田は、「スライダーやシュートを投げたほうが早く結果が出るでしょ」と言い、こう続けた。

「今のピッチャーは球数が多い。なぜ多いかというと、アウトコース低めにたくさん投げるから。でも、遠いとバッターはなかなか手を出さない。その点、インコースに投げれば手を出しやすいから、ヒットを打たれるか、凡打になるか......いずれにしても結果が早い。僕はどんどん振らせていったから84球で完投っていうのもあったし、試合時間も短かった。審判の人には喜ばれたなぁ......『安田が先発なら早く帰れる』って(笑)」

 結果が出るのが早いとはいえ、プロの世界、打たれたら意味がない。

「それが打たれないから不思議なんですよ(笑)」

山本昌が認定する現代の魔球6選>>

 そして話は間合いの早さへとつながった。

「どのバッターにも1球目を投げる前に2球目までは何を投げるのか決めていたし、2球目を投げる前には3球目が決まっていた。だから早いテンポで投げられたんです」

 キャッチャーからのサインはどうなっていたのかと向けると、「基本はノーサインでした」と、またしても驚きの発言が飛び出した。

「監督が広岡(達朗)さんになってからは、野手が守りにくいからと言われてサインで投げるようになりましたけど、それまでは基本ノーサイン。キャッチャーの大矢(明彦)がうまかったんですよ。あと、八重樫(幸雄)もしっかり受けてくれたしね。ただある時、ふたりともケガをして、芦沢(真矢)という高卒2年目ぐらいの選手がマスクを被ることになってね。その時はさすがに難しいだろうと思って、『ノーサインでも捕れるか?』って聞いたんです。そしたらあっさり『大丈夫です』って言われて、これにはガクッとなりましたよ(笑)」

 結果はどうだったのか。

「まったく問題なく捕ってました(笑)。でもね、キャッチャーには簡単に捕れるけど、バッターは簡単に打てない......自分で言うのもなんだけど、不思議なボールだったんでしょうね」

 魔球の正体に触れた気がした。

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