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巨人・坂本勇人の4発に驚いた高校時代。
左利きが生んだ高度な打撃技術 (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Koike Yoshihiro

 9月9日の中日戦、坂本は1日で3本のホームランを放った。1本目は内角低めの144キロのストレートを右中間に、2本目はほぼ同じコースのフォークを左中間に。3本目は真ん中のストレートをレフトスタンドに放り込んだ。広いナゴヤドームをものともしない見事な3発に驚いた。

 じつは以前、坂本の"4発"に驚かされたことがある。高校3年春の東北大会だった。この大会で坂本は4試合で16打数13安打(打率.813)、4本塁打と驚異的な活躍を見せる。ホームランもバックスクリーンの左右に、いずれもライナー性の弾道で放り込んだもの。力を入れて打とうとしない代わりに、ボールを長く見て自分のポイントまで呼び込み、コースに逆らわずに無理なく振り抜く。力よりも"技術力"を感じた4発だった。

 そんな高度な技を見せつけられたので、光星学院でのバッティング練習では、わがままを言って、間近で見せてもらった。

 とにかくミートポイントが近い。ボールが捕手のミットに入る寸前になって、坂本のグリップが体の内側からニュッと出てきて、次の瞬間、スパーンとボールを引っ叩く。いや、引っ叩くというよりは、バットのヘッドが真っすぐ走り、ボールを乗せて運んでいく感じだ。

 そのバッティングを見て「前の腕(左腕)が使えるバッターだなぁ」と思った。左腕でリードしながらバットを引っ張り出し、インパクトの瞬間に右手の押しを効かせて振り抜く。その両腕のバランスが絶妙だった。

 木製バットを使ってのバッティング練習だったが、懐を深くつくってからのタイミング、ミートに間違いがない。だから、センターから右方向に打球が飛んでもなかなか落ちてこない。ライナー性の打球が何本もフェンスを越えていった。

「自分、ほんとは左利きなんですよ」

 お願いしたサインボールに名前を入れながら、ほんとに左手でペンを走らせていたから驚いた。

「字を書くのも、箸を持つもの、背中を掻くのも左なんです」

 その言葉を聞いて、すべてに合点がいった。

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