阿部慎之助は強肩強打だけじゃない。
捕球技術も超一流で捕手の手本だ (2ページ目)
「今年は阿部だ!」
狙いを定めた球団は"阿部番"スカウトを任命し、来る日も来る日も中央大のグラウンドに通わせた。東京・八王子にある中央大多摩キャンプ内にあるグラウンドのネット裏には、そんな"阿部番"が連日、何人も顔を揃えていた。
"逆指名"という制度は、当時のスカウトたちの働き方を変えた。それまでの選手を探して回るから、獲得する選手に狙いを定めOKをもらうまで日参するのが仕事となった。まだ暗いうちから電車を乗り継ぎ、毎日グランドに向かう。そんな苦労を重ねても獲得できる保証はどこにもない。当時、"阿部番"だったスカウトが振り返る。
「中央大のグラウンドに行って、阿部くんの練習を見ると、やっぱりすごい選手だと思うわけですよ。あのスローイングを見せられたら、いまプロに入ってもナンバーワンだろうって。バッティングだって、スイングスピードは年々上がっているし、強烈な打球を放つようになっている。阿部くんを獲得できれば、『15年はキャッチャーの心配はいらない』と本気で思っていました。キャッチャーのドラフト候補というのは、ピッチャーと違って毎年必ずしもすごい選手がいるとは限らない。でも、阿部くんは間違いなく本物のキャッチャーだった。だから『ケツが痛いなぁ』って思いながらも、毎日座って見ていましたよ(笑)」
アマチュアには「強肩・強打の捕手」がたくさんいる。しかし、その選手がプロに入った途端、"強打"のフレーズが消えることが多い。それだけ打てる捕手というのはプロの世界においては難しく、いかに貴重であるかがわかる。とくにDH制のないセ・リーグにおいては、打てる捕手がいる、いないで戦況は大きく変わる。
事実、阿部が入団した2001年から今シーズンまで、巨人は8度のリーグ優勝を果たし、Bクラスはたった3度しかない。マスクを被れば投手陣を盛り立て、バットを握れば打線の中軸としてチームの勝利に貢献する。巨人にとって「当たり前だった日常」は、とんでもなく希少な時間だったと、いまさらながら気づかされるばかりだ。
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