「選手を指導してはいけない」
吉井理人が大学院で学んだコーチング学 (3ページ目)
選手は教えられるのが嫌だから、コーチは指導してはいけない──。その代わりサポートするとしたら、具体的には何をするのか。
吉井の場合、重視しているのは選手とのコミュニケーション。それもただ単に言葉を交わすのではなく、「振り返り」という作業が中心になる。
「振り返りはコーチになった当初からやっているんですが、最初は雑談みたいな感じでした。当時は自分もまだプレーヤーに近かったんで、先輩が後輩に話しているような雰囲気で。一対一のときもあれば、グループでやるときもありました。
そのなかで選手が自分のプレーを振り返って、疑問があったとき。当時は自分が持っている答えを簡単に言ってしまうことが多かったんです。でも、それでは選手のためにならないんですね」
コーチとしては、選手にとっての疑問、問題を自分自身で解決できる力を身に着けてもらいたい。ゆえに「振り返り」の場で先に答えを言ってしまっては意味がなく、ヒントを与える程度にしておきたい。それが当初はうまくいかないときもあったが、年々改善され、進歩もしてきたという。
「今はしゃべることが10あるとしたら、8は選手にしゃべらせて、こっちは2ぐらい。本当は、こっちがしゃべることをもっと減らしたいなと思っているんですよ。でも、どうしても選手と話しているうちに、ついつい『ああ、そうやな。それはこうであってやな』というふうに話してしまうときがあるんですよ。だから、なかなか2から1に減らないですね」
理想は、選手から話が始まり、選手同士だけで話が進んでいくこと。そのために吉井は、コミュニケーション方法に工夫を加えている。
たとえば大学院2年目、研究を続けながらソフトバンクの投手コーチを務めたときには、今の若い選手に合わせてLINEも使った。さらに振り返りの内容をその場限りにしないことも大事と考え、選手の発言をレコーダーで録音し、スタッフの力も借りつつ文字起こしして記録する。
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