「選手を指導してはいけない」吉井理人が大学院で学んだコーチング学 (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • 西田泰輔●写真 photo by Nishida Taisuke

 振り返れば、07年限りで現役を引退し、直後に日本ハム投手コーチとなった吉井は、同年の秋季キャンプに参加した後にこう語っている。「痛感したのは、かなり勉強しないといいコーチにはなれない、ということ」。その勉強の最たるものが大学院だったとすれば、学ぶ前と後で何がどう変わったのか。

「変わったというか、その前から、わりと自分のなかでコーチングの哲学は持っていたんです。それを大学院で科学的な研究に基づいたコーチングの勉強をさせてもらって、あながち間違っていなかったな、という確認ができました。やっぱり、コーチは選手の邪魔をしたらダメなんだと。あの......指導しちゃダメです」

 選手の邪魔をしたらダメ、というのは感覚的に理解できる。が、「コーチの立場で指導してはいけない」となると、その仕事の意味がわからなくなる。あくまでもイメージしてみれば、コーチ対選手は"教える教えられる"関係ではなく、コーチは目標に向かって走る選手に伴走するようなものだろうか。

「そうですね、本当にサポートですね。とくに今、指導者のパワハラが問題になっていますけど、昔はそれである程度の成果が出たんです。でもやっぱり、長い目で見ると、それでモチベーションを保つのが選手はすごく大変なので、結果的にはダメになりますよ。アスリートファーストという言葉がありますけども、指導者は『選手が主役』じゃないとダメですね」

 吉井にとって、コーチングの哲学を表す言葉のひとつが「アスリートファースト」だ。大学院では野球だけでなく、ほかの競技の指導方法、心理学、生体力学などを学び、現在は自身のコーチングに確信を持ちつつあるそうだが、その哲学も確かなものになったのだろうか。

「ちゃんと根拠があるんだとわかりました。現役時代、自分がコーチに教えられるのが嫌だったんで、自分が嫌だと思うことは絶対に選手にしないでおこうと、そういう使命でやっていたんですけども、そのこと自体、根拠があるんだと。やっぱり、これはこれでいいんだ、と思えましたね」

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