スポ根漫画みたいなヤクルト秋季キャンプ。
しごきの中にも遊び心あり (2ページ目)
この多彩なメニューのなかで、今年の最大の難所は"サンドバッグ"で、強いボールでも差し込まれない"体幹"を鍛えることが大きな目的だ。ここでも鉛入りのベストを着用し、6分間サンドバッグめがけてバットを振り続ける。力が弱くなってくれば「ここからギアを上げることが進歩の差。抜くなら誰でもできるぞ」と石井コーチからの檄が飛ぶ。
「チックチックチック、チーン」
ここでもメトロノームが使われ、選手たちはガムシャラにバットを振るのではなく、一定のリズムに合わせてサンドバックを叩いているのだった。石井コーチがこの練習の効果について、次のように語る。
「シーズン中、若い選手の打撃練習を見ていて、同じ打撃投手が同じボールを投げているのに、同じタイミングでスイングできていないことが目についたんです。試合となれば、打者はなおさら受身になります。そういう意味で、自分のタイミングではなくメトロノームのリズムに合わせてしっかり振らせようと。そのなかでいいタイミング、いいポイントでサンドバッグにバットを押し込めるか。そして"再現性"というか、しっかりとしたリズムを身につけてほしいと思ってやっています」
今回、最終クールの5日間を取材したのだが、強く印象に残ったのが「地獄なのに、選手たちは平然としている」ことだった。昨年はうめき声や悲鳴、絶叫がスタジアムにこだましていたが、今年はそれがない。
上田剛史は「去年やって、しんどさに関しては免疫がありますから」と話した。8人制の紅白戦では監督を任され、試合前に打順や守備位置を真剣に考えている姿に頼もしさを感じた。上田は言う。
「去年の秋から始まり、春季キャンプ、シーズン中も数多くバットを振ってきたし、今年はきついなかでも考えながら練習できています。『こうやって打つ』という自分のバッティングの方向性を決め、意識しなくても勝手にそうなるまで振り込み、あとは自分のモノにするだけですね。ロングティーも去年と比べれば飛距離は出ていますし、100%の力で振らなくても、ある程度はスタンドインできるようになりました」
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