阪神2位指名もブレずに拒否。日本の四番に野球一筋の選択はなかった (4ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

高校生にもわかりやすい解説を

 鍛治舎にはもうひとつの顔があった。NHKの高校野球解説者として、全国の高校野球ファンに親しまれた。

「現役を引退して社業に戻っているとき、監督をやる前にお誘いいただきました。当時は、社会人野球の監督経験者がやることが多かったんですが、私にはコーチ経験もないのに話がきました」

 解説者としての経験が鍛治舎の引き出しになり、退職後の大きな決断のきっかけにもなった。

「始めたのは34歳のとき。足かけ、25年間やりました。それまで講演は何度かやっていたんですが、聞いていただく人の顔を見れば、年齢や男女比がわかる。それに合わせて話の内容を決めていました。でも、テレビの解説の場合は、相手が小学生からお年寄りまで幅広くて、誰に向かって話せばいいのか迷いました」

 そのときに浮かんだのが、自身のプレーの解説をしてくれた人の言葉だった。

「高校時代や大学時代、評論家や解説者にほめてもらい、モチベーションを上げて頑張れたことを思い出しました。もちろん、試合中に選手の耳に届くことはありませんが、録画して見るときがきっとある。だから、高校生にもわかりやすい解説をすることを心がけました」

 予選を勝ち上がって甲子園に出た選手でも、技術的には未熟だ。大舞台で緊張してミスをすることもある。

「プロ野球選手じゃないから、たくさんミスもします。起きたことに対して、よかった・悪かったというのが評論。なぜそういうプレーになってしまったのか、どうすればよかったのかを話すのが解説だと考えました。『もう一歩左に寄っていれば』とか、『バウンドした瞬間に判断できれば』という言い方をしていましたね。同じ失敗をまた繰り返さないように」

 鍛治舎は社業のかたわら、2010年夏まで高校野球解説を続けた。解説者として甲子園のスタンドにいるとき、自分が監督として聖地に立つことなど想像もしなかった。

(後編に続く)

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