ドラフト1位の苦悩。期待の大型内野手が
「打ち方を忘れた」状態とは (3ページ目)
──プロ野球には、まず守備力を活かしてポジションをつかみ、次第に打撃を向上させる選手がいます。2000本安打を達成した宮本慎也さん(現東京ヤクルトスワローズコーチ)がその代表でしょう。しかし渡辺さんは、打撃開眼はおろか、高校時代のバッティングを取り戻すこともできなかったのですか。
渡辺 最後までバッティングの課題を克服することはできませんでした。少しずつ慣れてはいきましたが、打率は低いまま。それは自分に原因があったと思います。プロでは5人くらいのバッティングコーチに指導を受けましたが、言うことが全員違う。そのうちにどうしていいのか、わからなくなりました。「バッティング・イップス」みたいなものですね。
ピッチャーの立つプレートからホームベースまでは18・44メートルしかありません。迷っているうちにボールは通り過ぎてしまいます。どういうタイミングでバットを振り始めたらいいのかさえわからなくなって、体が固まってしまう。「えっ、どうやって打つんやったっけ?」......と。コーチに、「オレの言う通りにやって打てなくても一軍に置いてやるけど、それができないなら二軍に行け」と言われたこともあります。そのうちに、バッティング練習をするのが嫌になりました。
──あるコーチは「バットをひと握り短く持って、大根切りのように叩きつけろ」と言い、別のコーチは183センチの長身を活かして「もっと長打を狙ってすくいあげるように打て」と指示したそうですね。
渡辺 どうすればええんか、わからんようになって、苦手なバッティング練習を避けるようになりました。「僕は守備の練習をしっかりやりたいんで」と言って。守備練習は楽しくて、楽しくて。「僕のバッティング練習の時間を先輩にどうぞ」と譲っていました。ある種の逃げだったんじゃないですかね。
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