明かされる日本シリーズ秘話。野村「ID野球」の陰に仰木監督の友情

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • photo by Kyodo News

名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第13回

 ソフトバンクとDeNAが日本一をかけ、日本シリーズで激突する。シーズンと日本シリーズのような短期決戦は、まったく別物だという考えが球界には根強く残っている。事実、これまでこの短い戦いのなかで両軍が知恵を絞り、多くのドラマが生まれた。果たして、この大舞台を控え、首脳陣や選手たちはどのような準備をし、どんな気持ちでいるのか。ヤクルト、近鉄のコーチとして4度の日本シリーズを経験した伊勢孝夫氏に過去の日本シリーズを例に語ってもらった。

(第12回はこちら)

93年に西武を破り、日本一を達成した野村克也監督率いるヤクルト93年に西武を破り、日本一を達成した野村克也監督率いるヤクルト コーチとしてこれまで何度か日本シリーズを経験したが、シーズンとは雰囲気も戦い方もまったく違う。印象に残っているのは1992年と1993年、ヤクルトのコーチ時代に対戦した西武との日本シリーズだ。

 92年は公式戦が終わったあと、本番が始まるまで選手やコーチは自宅に戻らず都内のホテルに宿泊し、昼は神宮球場で練習していた。いわば、ミニキャンプのような感じだ。

 そんなある日、野村(克也)監督から「おい、オレの部屋に来い」と連絡があったので行くと、そこに当時近鉄の監督をしていた仰木彬さんと投手コーチの神部年男さんがいた。「彬が持ってきてくれた」と野村監督が言うので何かと思ったら、西武のデータだった。当時、野村監督は「ID(Important Data)野球」を掲げ、経験や勘に頼るのではなく、データを駆使し、科学的に試合を進めていた。

 昔は、日本シリーズ用のデータは監督やコーチの個人的なルートで入手することが多かった。もちろん、スコアラーも偵察に行くが、材料は多ければ多い方がいい。その仰木監督が持ってきてくれたデータだが、内容はあくまで近鉄対西武戦のものだ。

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