【イップスの深層】1日1000球の秘密特訓で、ガンちゃん奇跡の復活 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

無料会員限定記事

 そうした段階を経て、岩本は1学年下の内野手である荒井昭吾にある依頼をする。

「俺がボールを投げるから、トスバッティングで打ってくれへんか。悪いけど、多少のボール球なら打ってもらいたいんや。俺にピッチャーらしい姿で野球をやらせてくれ」

 いくらチームメイトと言っても、プロ野球選手は個人事業主。荒井にとって岩本の練習に付き合うことは、本当は不毛なことだったのかもしれない。しかし、荒井は嫌な顔ひとつせず「エンドランの練習になりますから、こちらこそありがたいですよ」と言って付き合ってくれた。

 荒井とのトスバッティングに慣れてくると、岩本が「恐怖のL字ネット」と呼ぶ、打撃投手用のL字型ネットを置いて投球し、荒井に打ってもらうようになった。

「『カーン!』というサウンドで、ピッチャーらしさが自分に帰ってくるんです。そうやって、徐々にピッチャーの自分を取り戻していく。人の目を増やしていく。距離を伸ばしていく......。また怖くなって前に行く。今度は室内練習場の人工芝からグラウンドの土に戻ったときに、また恐怖がやってくる。また前に出る......。その繰り返しですよ」

 気の遠くなるような作業。岩本の口から語られるエピソードに戦慄していると、ふと岩本が何かに気づいたように、筆者に語りかけてきた。

「いま僕の顔を見ながらメモを取っていたでしょう? それって幼い頃から学校で文字を教わって、漢字ドリルを何度も繰り返し練習して身につけた『技術』なんですよ。目をつぶっても、よそを見ていても文字が書ける技術。僕もね、投げることに関して同じような技術をつけようと思ったんです。目をつぶっていても、ある程度狙ったところに投げられる技術をね」

全文記事を読むには

こちらの記事は、無料会員限定記事です。記事全文を読むには、無料会員登録よりメンズマガジン会員にご登録ください。登録は無料です。

無料会員についての詳細はこちら

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る