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【イップスの深層】
暴投のガンちゃんを救った
先輩捕手たちの気づかい (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

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 二軍での練習中、キャッチボールを終えてシートノックに移る直前のこと。岩本は「ちょっとすみません」と言ってボールを1球手に取り、ホームベースからバックスクリーンに向かって思い切り放った。そのボールはぐんぐん加速して、センターのフェンスを越えてバックスクリーンに直撃。そこで岩本は「あ、オレ、投げられるんや」と実感し、そのままブルペンに入る。

 しかし、ブルペンで岩本は絶望を味わうことになる。18.44メートル先にいるはずのキャッチャーが、とてつもなく小さく見えるのだ。

「遠近感が取れないんですよ。それに自分がどうやって足を上げていたのか、思い出せなくなる。それでもキャッチャーから『どうでもいいから投げてこい!』という声が聞こえてくるんです」

「足を上げるんだ」と自分に言い聞かせながらなんとか1球を投げ込むと、ボールはホームベースのはるか手前でバウンドする大暴投になった。

 気まずい雰囲気が流れそうになった刹那(せつな)、捕手が明るく「きました、ガンちゃんのモグラ殺し!」とはやし立てた。思わず苦笑いがこぼれ、投球を再開する。すると、今度は空高く舞い上がるようなすっぽ抜け。それでも捕手は景気のいい口調で「はい、ヒバリも一匹!」となごませる。岩本はこの捕手の気づかいに救われる思いがしたという。

「ファイターズのキャッチャーはみんな心が広くて、優しい人ばかりでしたね。『ええねん、ガンちゃんがコントロール悪いのは知ってるから、今日は何匹でもいこうか!』と言ってね。山中潔さんに岡本哲司さん。丑山努(うしやま・つとむ)さんもそうやったな。こうやって冗談にしてくれるのが救いになるんです」

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