【イップスの深層】暴投のガンちゃんを救った先輩捕手たちの気づかい

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

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連載第2回 イップスの深層~恐怖のイップスに抗い続けた男たち
証言者・岩本勉(2)

(前回の記事はこちら)

プロ入り後もイップスに苦しみ、自分のフォームさえ忘れた時期があったと語る岩本勉氏プロ入り後もイップスに苦しみ、自分のフォームさえ忘れた時期があったと語る岩本勉氏「神宮球場のブルペンで投げられないピッチャーって、いっぱいいるんですよ。あそこはファウルグラウンドにブルペンがあるでしょう。もし暴投を投げたら、タイムがかかってゲームが止まってしまいますから」

 元・日本ハムファイターズの岩本勉はプロ野球界の"秘部"とも言える実情を明かして、こう続けた。

「やっぱり、イップスになる一番の原因は『人の目』やと思うんです。周りにどう思われているか。それが気になって、ひどいときはキャッチボールから自分の体が操作不能になってしまう」

 幼少期からイップスの気(け)があったという岩本が、本格的にその症状に苦しむようになったのはプロ3年目だった。前年に一軍で5試合に登板し、防御率2.00と上々のスタートを切っていた岩本だが、大きな落とし穴が待っていた。

「東京ドームに先輩のバッティングピッチャーを務めに行ったんです。でも僕、プロ野球のピッチャーなのに、バッティングケージにもボールが行かなかったんですよ。目の前のL字型ネットに『コーン!』と当たって。それを見たバッティングコーチが飛んできて『ケガ人が出るから替われ!』と。それはそうですよね。バッターにもコーチにも生活があるわけですから。コーチの言葉に悪意はないんですけど、でもあの『替われ!』っていう言葉はキツかったですね......」

 岩本は周囲に「自分がイップスである」ということは公言していなかった。野球選手としては致命的な弱みのようにも思えた。しかし、本人があらたまって口にしなくても、誰の目に見ても岩本がイップスであることは明白だった。

「『自分は投げられない人間なのかな?』と勘違いする。それで、どんどん病んでいくんです」

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