プロ野球トライアウト外伝。「イップス地獄」から這い上がった男たち (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 祐實知明●写真 photo by Sukezane Tomoaki

 2014年に初めてトライアウトに挑戦した北方のマウンド姿に、多くの関係者とファンは言葉を失った。まるで右腕の通し方を忘れてしまったかのように、ぎこちなく縮こまったテークバック。ほんの半年前までは「トッププロスペクト(有望株)」だったとは思えない状態だった。この日、北方は打者3人に対して2つの四球を出している。

 翌年はソフトバンクと育成選手契約を結んだが、三軍での成績は惨憺たるものだった。9試合に登板、5回1/3を投げて21四死球、防御率23.63。わずか1年限りで2度目の戦力外通告を受けている。

 北方は壊れてしまった――。

 誰もがそう思っていた。だが今年、3度目となるトライアウトに挑戦した北方は、見違えるような姿を見せた。以前と比べて投球動作はスムーズになり、ストレートは最速143キロをマーク。スライダーでもストライクが取れた。これまでのように、ただストライクゾーンを目指して悪戦苦闘するだけの投球ではなかった。

「今年の7月に愛媛(マンダリンパイレーツ/四国アイランドリーグ)に入って、試合にいっぱい使ってもらえるようになってから、そのなかでいい感覚が増えてきました。まだ完璧ではないんですけど、ちょっとずつ階段を上っていると思います」

 今季、シーズン途中から愛媛に加入した北方は、15試合、33回1/3を投げ、四死球15、防御率2.43という成績を残した。

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