プロ野球トライアウト外伝。「イップス地獄」から這い上がった男たち (3ページ目)
それ以前に所属していたBCリーグ・群馬ダイヤモンドペガサスでの同僚で、2011年のDeNAドラフト同期でもある伊藤拓郎は、北方についてこう語った。
「客観的に見ても、群馬では北方の登板機会が少なかったので。(今年は)崩れていたフォームも良くなりましたし、今日は見ていて僕もうれしかったですね」
実戦を積むなかで、マウンドで余計なことを考えなくなったことが、北方に好循環をもたらした。現在、北方がフォームについて考えていることは1点だけ。それもボールをリリースする右腕ではなく、最もボールから離れた位置にある「左足」だという。
「今は投げるときに『左足を開かない』ということだけしか意識していません。足だけを意識して、バッターに向かっていく。今までは上半身のことを考え過ぎてしまっていたので、なるべく『下、下』というイメージで投げています。左足でタイミングを合わせて、上半身はそれについてくるくらいの感じです」
下半身を意識することで、上半身は無意識のうちに「振られている」感覚をつくる。こうして、北方は自身が思い描く投球に近づきつつある。
―― 今、ピッチングが楽しいんじゃないですか?
そう聞くと、北方は実に晴れやかな笑顔を見せ、「はい」とうなずいた。
「いま、ピッチングがめっちゃ楽しいですね。投げていて、バッターと対戦できるということが。自分のなかでは、これからもっと良くなる感覚があります」
8月には最速150キロをマークしたという。まだ上るべき階段は多いにしても、北方は自身の向かう先にはっきりと光を見出している。
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