プロ野球トライアウト外伝。「イップス地獄」から這い上がった男たち (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 祐實知明●写真 photo by Sukezane Tomoaki

 2015年秋に開催されたトライアウトで最も多く安打を放ったのは、2014年にヤクルトを戦力外になった貴規(たかのり/佐藤貴規)だった。7回打席に入って4安打。シュアな打撃を存分に披露したが、貴規にとって実戦形式に入る以前に"難関"がそびえていた。

「僕の場合、まずシートノックをどうするかが大事だと思っているので......」

 貴規はヤクルト時代、どんなにファームで好成績を残しても育成選手契約だった。支配下登録されなかった理由は、貴規のスローイングにあった。昨年のトライアウトでは、シート打撃が始まる前のシートノックでこんなシーンが見られた。

 センターのポジションについた貴規がゴロをさばく。捕球まではごく普通だが、スローイング動作に入ると突然、動きが遅くなる。自分の右腕の通り道を確認するように大きくテークバックを取り、不自然にトップをつくって腕を振る。送球は何度も抜けたり、引っ掛かったりと、安定しなかった。

 この時点で、貴規のトライアウトは終わったと言っても過言ではなかった。どれだけシート打撃で打とうが、このスローイングを見て獲得に乗り出す球団があるとは考えられなかった。事実、貴規に声を掛けるNPBのチームはなかった。

「去年のトライアウトは、緊張で地に足が着いていない状態で受けていました」

 貴規はそう振り返る。シート打撃で4本のヒットを放っても、気分は晴れなかった。そして今年、貴規は昨年に引き続きBCリーグの福島ホープスに所属した。今季の成績は71試合に出場して、打率.313、7本塁打、46打点、24盗塁。3度目の挑戦となるトライアウトでも、やはり守備面が課題になることは間違いなかった。

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