2015.06.21

【根本陸夫伝】
王貞治を「ラーメン屋のせがれ」と言い放った男

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

「コーチ連中に言っとくけど、お前ら、監督に遠慮しすぎなんだよ。『世界の王』だと思って接しているからそうなるんだ。この王くんは、ラーメン屋のせがれなんだよ」

 いかにも、王の両親は東京で中華料理店を経営していたが、思い切った言い方に森脇は衝撃を受けた。なにより「王くん」と呼んだことに度肝を抜かれた。しかし、この会議をきっかけに監督とコーチの溝が消え、それが選手間に好影響をもたらし、チームに一体感が生まれたという。

「根本さんから王さんには、事前に『オレが会議でこういう風に言うから』と話をされていたかもしれません。後から考えてみて、それが根本さんのやり方じゃないかと思ったんです。いずれにしても、僕自身まだ30代の時に、そういうふたりの方にご縁をいただきました。これは自分の人生にとって本当に大きなことでしたし、大きな財産になりました」

やり直しのきかない人生なんてないんだ

 99年2月、森脇がコーチになって3年目のキャンプ。その時に根本にかけられた言葉が、ずっと胸に残っている。

「オレの目の黒いうちに、一人前になるんだぞ」

 まさか、その2カ月後に根本が亡くなるなど、思いもよらなかった。悲しみの中でも戦いは続き、その年、チームはダイエーとなって初のリーグ優勝、日本一を成し遂げた。

「他界された時は寂しかったですし、信じられなかったです。本当に突然でしたから……。いまだに『もうこの世にいない』ということがあまりピンと来ないんです。いま天国で、どのようにプロ野球を見ておられるのかなと思いますし、根本さんにもう一回、アドバイスをいただきたいなって思うような時もたくさんあります。苦しい時だけじゃないですけど、苦しい時には特に。恩師に違いありませんけども、なにか、恩師よりももっと大きく表現する言葉があれば……と思いますね」