敗れて強し。日本ハムが貫いた奔放かつ緻密な野球

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by NIkkan sports

 ファイターズの指揮官に、騙された。

 そのしたたかさには、まったく恐れ入る。

試合後、健闘を称えあった日本ハム・栗山監督(写真左)とソフトバンク・秋山監督試合後、健闘を称えあった日本ハム・栗山監督(写真左)とソフトバンク・秋山監督

 思えば、クライマックス・シリーズ(CS)が始まる前、栗山英樹監督は下剋上を果たすために必要なことを明かした。それは「初戦を取る」「レギュラーでも状態が悪ければスパッと代える」「大谷翔平はファイナル・ステージではバッターとして起用する」という、3つのファクターだった。しかし、ことファイナル・ステージに当てはめてみれば、これはことごとく裏切られたと言っていい。初戦はまさかの逆転サヨナラ負けを喫し、状態の悪い陽岱鋼を信じ続け、大谷は第5戦の先発として送り出した。

 それでも、ファイターズは地力に勝るホークスを追い詰めた。

 いや、知略に長(た)けた指揮官だったからこそ、盤石だったはずのチャンピオンを慌てさせたのだ。

 ホークスの秋山幸二監督は日本シリーズ進出を決めた直後、ファイターズを評して「のびのび野球」と言った。確かに、リードを許しても怯(ひる)まず、グラウンドで躍動する若い選手たちのことはのびのびしているように見えたかもしれないし、実際、そういう舞台を栗山監督が用意している側面はあるだろう。しかし指揮官の緻密な発想は、のびのび野球とは対極にある。

 たとえば、絶対に取らなければならなかった初戦。

 2対1と逆転に成功し、好投の浦野博司を最終回も続投させたことについて、負けた後、疑問の声が噴出した。浦野ではなく、9回の頭から抑えの増井浩俊に託すべきではなかったのか、と......浦野が李大浩を歩かせ、松田宣浩にヒットを打たれて1、3塁になってから増井に代えたから、なおさら批判の声は大きくなった。そしてワンアウト2、3塁になって吉村裕基と勝負、逆転サヨナラ打を浴びてしまうに至っては、なぜ歩かせて満塁策を取らなかったのかとも責められる。しかし栗山監督はそのすべてに丁寧に答えた。

「李大浩、松田、中村(晃)と続くところは増井よりも今日の浦野の方が通る(通用する)と思った。でもランナーが3塁に行ってしまったら三振を取れる増井に託した方がいい。満塁策を取らなかったのは、歩かせれば次に代打で長谷川(勇也)がくるのはわかっていたし、一塁をあけた状態で吉村と勝負させた方がフォアボールを怖がらず、増井の腕が振れると考えたから。もし吉村を抑えれば、長谷川を歩かせることもできたしね」

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