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広島逆転優勝へ! 丸、堂林は「由宇球場」の原点に戻れるか (3ページ目)

  • 谷上史郎●取材・文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Nikkan sports

 由宇の広さは捕手の守備力向上にも大いに役立っている。山崎氏の言葉に力がこもる。

「そこもかなりあるでしょう。投球を後ろにそらすととにかくバックネットまでが遠いので少しでも緩慢な動きを見せると即2つ盗られる。だから、まずキャッチャーは必死になって止めようとする。もちろん、ワンバウンド止めの練習はファームではどのチームも毎日やりますが、広島の場合、由宇の環境によって、何が何でも止めてやろう、という思いが強くなる。これが大きい。それに内野ゴロの時のバックアップなんかでもキャッチャーを含め、必死で走る習慣がつく」
 
 この話に結びつく数字がある。今年のパスボール、ワイルドピッチの総数、つまり1軍のバッテリーエラーの数だ。広島は144試合を戦いわずか37個(捕逸5、暴投32)。これは12球団トップの少なさで巨人の56、阪神の63と比較しても差は歴然。石原慶幸、會澤翼を中心に白濱裕太、倉義和……。彼らが体を張って球を止める姿が浮かんでくる。数字に表れないプレーが1つ1つの貴重な白星にもつながってきたのだろう。

 さらに先の金本氏が「攻撃では、あの広さのおかげで次の塁を狙う意識が自然に育った」と話していた走塁面。山崎氏も「そこも、もちろん習慣になっています」と頷(うなず)いた。

「ファームでは、対戦相手も由宇でやる時は『少しでもミスがあれば2つ』と狙ってきますが、広島の選手はそれが当たり前になっている。どんな打球にも緩まずベースを回って少しでもミスがあれば常に先を狙う。悪送球やパスボールなんかがあると、1つじゃなく、2つというのは由宇では珍しくないですからね。今年の1軍の試合を見ていても、今のでよく2ついったなと思う積極的な走塁がよくありましたけど、ファームでの練習で培った感覚が生きていますよね」

 印象的なシーンとして思い出すのは例えば2年前の7月3日に行なわれた阪神戦(坊ちゃんスタジアム)。1点を追う9回二死二、三塁で梵が空振り三振に倒れるも、その球を相手捕手の小宮山が後逸。すると三塁走者に続き、二塁走者の菊池も一気にホームへ滑り込みサヨナラ勝ちを決めた、あのシーン。今季も、同じく菊池が4月24日のヤクルト戦(神宮)で、丸のサードファウルフライで一塁からタッチアップで二塁を陥れた。また、7月26日の阪神戦で今度は打者・菊池が1点ビハインドの8回に2ランスクイズを決めた場面……。実に広島らしい攻めがいくつも蘇ってくる。

 今やチームを象徴する存在となった菊池涼介は1年目から1軍出場が多く、由宇のイメージは薄い。しかし、その持ち味が広島野球の中でさらに磨かれ、発揮されていることは確か。そして、そのチームカラーを作ってきた原点は、今でも高卒、大卒組が大半を占める若鯉が鍛え込まれてきた由宇の時間の中にある。

 11日からクライマックスシリーズが始まる。敵地でのタフな戦いが予想されるが、広島らしい戦いを実践できれば、もう一度、地元ファンの前に戻ってくる可能性は十分にある。

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