マネーボールの申し子。楽天新加入のユーキリスはこんなにすごい

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • 田口有史●写真 photo by Taguchi Yukihito

 2004年の6月にメジャーリーグの取材でボストンを訪れた時のことだった。レッドソックスのロースターに「ケビン・ユーキリス」の名前を確認して、「あのユーキリスが本当にメジャーに昇格したんだ」と胸を躍らせ、打席に入った彼がボールを見送るたびに「これがユーキリスか」と感動したことを今でも覚えている。そのユーキリスが今年、日本でプレイすることになった。

2009年の第2回WBCではアメリカの4番を任されたユーキリス。2009年の第2回WBCではアメリカの4番を任されたユーキリス。

 楽天がユーキリスと契約を交わしたというニュースを聞いた時は、一瞬、耳を疑った。ヤンキースに所属していた2013年は腰の故障などもあって28試合の出場にとどまっていたが、年俸1200万ドルの大物メジャーリーガーが日本に来ることなど、考えもしていなかった。ケーシー・マギーがメジャー復帰を果たした直後に、しかも契約金と年俸を合わせて3億円(推定)というから、楽天フロントの調査力と交渉力には感服するばかりだ。

 そのユーキリスの名前を初めて知ったのは、2003年に全米でベストセラーとなった『マネーボール』(マイケル・ルイス著)だった。2011年にはブラッド・ピット主演で映画化されたのでご存知の方も多いだろう。内容を簡単に説明すると、主人公であるアスレチックスGMのビリー・ビーンがセイバーメトリクス(※)を駆使して、貧乏球団を常勝軍団に育て上げていくというもの。

※統計学手法を用いて野球を分析すること。

 ここでビーンGMの片腕であるポール・デポデスタが、アマチュア選手のデータを眺め、こう語るシーンがある。

「ケビン・ユーキリスという大学生を一度、見ておいた方がいい」

 デポデスタはユーキリスのプレイを実際に見たことはないが、セイバーメトリクスにおいて出塁率と長打力は重要視されており、ユーキリスはシンシナティ大学時代に53本塁打、206四球、出塁率4割9分9厘という驚異的な数字が彼の目に留まった。

 だが、アスレチックスの古参スカウト部長は、「太った三塁手だろ。足は遅いし、スローイングも悪い」と、デポデスタの発言に取り合わなかった。スカウトには自分の目を信じて、全米を歩いてきたという自信と誇りがあったからだ。

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