【WBC】侍ジャパン2009「イチロー、仲間と戦った37日」 (2ページ目)

  • 津川晋一●文 text by Tsugawa Shinichi
  • photo by Taguchi Yukihito

「前回大会からいろんなことを比較してみると、マイナスのことが浮かんでこないんですよね。チームや選手だけではなくて、それ以外のところでも見当たらない。だから、余計なことをしなくてすむ、というか。だって、(メディアも大勢で)こんな感じになってるわけじゃないじゃないですか。余分の力を使わなくていいことも含めてマイナスがないんですよね。そして選手も、ポテンシャルや動きを見てもいい。何かを人工的に作っていく必要があるのかなあという感覚ですけどね」

 日本中がフィーバーした、宮崎合宿初日でのこの言葉が、何よりそれを雄弁に物語っていた。

僕だけがキューバのユニフォームを着ていた

 唯一、計算外だったのは、大会に突入してもなかなか調子が上がらなかった自らの打撃だったはずだ。最後の最後、決勝戦で決勝打を含む4安打を放ってみせたが、それまでチームに貢献できないことにイチローは強いストレスを感じていた。「みんなで行きたい」と連覇に向かったはずなのに、その自分が思うような結果を残せない。イチローはひとり、深い疎外感にさいなまれていた。

 3月18日、第2ラウンド。負けられないキューバ戦。5回無死一塁では送りバントすらできず、「ほぼ折れかけていた心がさらに折れた。僕だけが(相手の)キューバのユニフォームを着ているように思えた」という状況にまで追い込まれた。

 だからこそ、7回無死一塁で飛びだした右前打の嬉しさはひとしおだった。13打席ぶりのヒット。「あの打席から、ようやくジャパンのユニフォームを着ることができたという感じですね」と、素直に喜んだ。

 続く9回1死には鋭い打球で中堅手の頭上を越す。イチローらしいスタンディングトリプルだった。そして青木のヒットで、ダメ押しとなる5点目の生還。

「僕がヒットを打って得点することが、チームに貢献することなんだなと改めて思いました」

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