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【プロ野球】プロ初完封勝利。
斎藤佑樹が語った「不思議な感覚」の意味 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 オープン戦の最後、斎藤が投げていた試合で、金子がケガをしたことがあった。大事を取って交代させようとした栗山英樹監督に、金子はこう直訴している。

「斎藤が投げている間は僕、守ります」

 3年連続で2ケタ勝利を挙げている武田勝を差し置き、去年、6勝6敗だった斎藤が開幕投手を務めることを、果たしてチームメイトはどう思っているのだろうか……斎藤がそんなふうに感じていたとしても不思議ではない。開幕戦に完投勝利を挙げた直後も、「正直、今日の結果だけで開幕が自分でよかったのかどうかわからない」と話していたほどだ。

 しかし、ファイターズの選手たちは、斎藤のそんな葛藤を知っていた。夏の甲子園から斎藤が背負わされてきた十字架の重さを、身近にいる仲間たちは、少しずつではあるが、分かち合えるようになっていた。

 斎藤は開幕戦だけでなく、2試合目にも勝ち、3試合目には最悪の調子ながら耐えに耐えて試合を作り、惜敗した。そして今シーズンの4試合目、まさにプロ初完封を成し遂げようかという、9回裏ツーアウト。ここでベテランが、なりふり構わず、ダイビングをした。そんな金子の想いが、斎藤の涙腺を壊しにかかったのである。

 結局、ツーアウト1、2塁となって、セカンドの田中賢介からボールを受け取った斎藤は、一瞬、しゃがみ込んで悔しがる金子を見た。そして、まだピンチは続いているというのに、口元に穏やかな笑みを浮かべた。

 心の奥の方に染み入ってくるような、そんな喜びを、試合後の斎藤はこう表現した。

「嬉しいんですけど……不思議な感覚です」

 彼は大学時代も1回か2回だったので……と言葉を続けたが、完封が少なかったから不思議な感覚に陥ったわけではあるまい。不思議な感覚──それはおそらく、喜びよりも安堵が、彼を包んでいたからではなかったか。ようやく開幕投手として、チームメイトにほんのわずかでも認めてもらえたかもしれないという、そんな安堵感。

「カードの頭に投げるピッチャーとして、ちょっとした意地はありましたね」

 誰にも先駆けて3勝目を挙げたからではない。
 プロ初完封を成し遂げたからでもない。

 斎藤が何よりも欲しかった、仲間からの信頼をようやく得られたと感じたから……この夜が斎藤に不思議な、そして特別な感覚をもたらしてくれたのである。

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