【プロ野球】プロ初完封勝利。斎藤佑樹が語った「不思議な感覚」の意味

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

プロ初完封勝利を飾り、今季3勝目を挙げた斎藤佑樹プロ初完封勝利を飾り、今季3勝目を挙げた斎藤佑樹 不思議な、そして特別な夜だった。

 4月20日──雨が上がり、灰色の雲が空を覆う神戸。今シーズン、4度目の先発マウンドに向かうべく、斎藤佑樹が試合前のブルペンで投げていた。

 ビジターのチームが使う神戸のブルペンはレフトの脇にある。最近、ドームが増えたこともあって、ほとんどの球場のブルペンは室内にあり、ピッチャーが練習する姿を見ることは叶わない。しかし、この球場ではブルペンで投げる姿を目の前で見ることができる。

 斎藤のピッチングをこんな間近で見るのは、名護キャンプ以来のことだ。真横から見たこの日の斎藤には、軽く投げているように見えて力感があった。それは、踏み込んだ左足にしっかり体重が乗り、フォロースルーでは右足が左足を追い抜いて、しっかりと前へ運ばれていたからだ。そうすれば右腕も軽く振っている割りには速く振れるし、リリースポイントをバッター寄りにすることも可能になる。ストレートの質が明らかに変わっているのはこのリリースの感覚を身につけたからで、斎藤のストレートの威力は、バッターの近くでボールを離していることからもたらされている。実際、斎藤も「この感覚は去年の最後から引き続きという感じで持てている」と話していた。

 しかし、斎藤はこのフォームのバランスを前回のイーグルス戦で崩してしまった。重い責任を背負った開幕戦から3試合目、疲れが出る頃だったとしても不思議ではないが、その原因はわからない。だから斎藤は、前回の登板後、原点に立ち返った。平地での低い弾道の遠投によって、フォームのバランスを取り戻そうとしたのである。その距離は普段の遠投よりもさらに伸ばして50メートル。吉井理人ピッチングコーチがこう言っていた。

「前回は自分の投球フォームがわからないと言っていたけど、遠投を取り入れたのがよかったのか、今日はしっかりと自分のフォームで投げられていたね。遠投は強く投げないのがミソなんだけど、いい投げ方、いい(ボールの)回転じゃないと50メートル先には届かない。体の回復にもなるし、フォームを再確認するのにも遠投はいいんだよね」

 右足から左足へしっかり体重が乗らないと、それだけの長い距離を低い弾道で投げ切ることはできない。傾斜のあるブルペンで投げれば、平地の遠投よりもさらに体重が左足にしっかりと乗る。しっかりと体重移動ができれば、リリースポイントも前になる。そして、右足は勢いよく前へ運ばれるというわけだ。ブルペンで投げる斎藤の低めへのストレートは、じつに美しい軌道を描いていた。

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