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「人格や覚悟はカネで買えない」大谷翔平と山本由伸が「最高のワールドシリーズ」で世界中に証明したもの (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【カーショーの心を深く動かした山本の度胸】

 その大谷に並ぶほどの覚悟を見せたのが、山本由伸だった。強力なブルージェイズ打線を相手に3試合で17回2/3を投げ、2失点、防御率1.02、そして3勝。数字だけ見ても文句なしのMVP級だ。そのうえで第7戦での連投は常識外で、彼にとっても未知の領域だった。

「ブルペンで(肩を)作り始めた時は、まだ投げられる確信はなかった。もちろん投げること自体はできますけど、この第7戦という試合で、絶対に落とせない責任もありますし、迷いもあった。でも(体が)温まっていくうちに『いけるぞ』というところまで持っていけたので、首脳陣に『いける』と言いました」

 プロ入り以来、2日連続登板は初めて。だが山本は、平然としていた。

「限界を超えた感覚はないですね。チームも僕が"いける"と言わない限り、出さないと声をかけてくれたので、余裕を持って準備できました。落ち着いて、深呼吸して、いつもどおり試合に入りました」

 そんな山本の姿を、メジャーの大先輩クレイトン・カーショーは深く、心を動かされながら見つめていた。

「ヤマ(山本)がやったことは、史上最も勇敢で度胸のある登板だった。彼はシーズン中ずっと週1登板のリズムに慣れていたのに、自ら『投げる』と言って、しかも1イニングではなく、2回2/3を投げた。彼のチームメートでいられたことを誇りに思う。みんな『ドジャースはカネを使っている、だから勝って当然』と言うけれど、人格や覚悟は、カネでは買えないんだ」

「野球を壊している」と批判された2025年のドジャースだが、実際にはその逆だった。彼らは野球というゲームの価値を、むしろ高めてみせた。

 3月、日本で幕を開けたシーズンが、11月のカナダで閉じる----。その間、ドジャー・スタジアムの観客動員は400万人を突破し、ポストシーズンではアメリカ、カナダ、そして日本のファンが同じ瞬間に息を呑んだ。

 NBAニューヨーク・ニックスのジョーダン・クラークソンは「今まで見たなかで最高のワールドシリーズ」とSNSに投稿し、テニス界の伝説でありドジャースのマイノリティオーナーでもあるビリー・ジーン・キングは「これまで見た中で最もすばらしい野球の試合」と称賛。NFLの元スター選手、J.J.ワットも「第7戦の狂気ぶりは脚本でも書けない。シリーズ全体を通して、起こったことすべてが信じられない」と興奮を伝えた。

 多くの人々が、このドジャース対ブルージェイズのシリーズを見て、野球の魅力を再発見した。それは、金額でも戦力でも測れない、プレーそのものの力----。大谷と山本が見せた闘いは、野球というスポーツがいまだに"心を震わせるもの"であることを、世界に証明したのである。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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