検索

【MLB】大谷翔平の目標は「復帰」ではなく「進化」 ドジャース日本人三本柱への期待 (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【才能の片鱗をいきなり垣間見せた佐々木】

 初登板が最も注目を集めるのは佐々木だ。山本よりも背が高く、速球も速く、年齢も若い。投手としての才能は、もしかすると大谷をも凌ぐかもしれない。

 そんな佐々木が3月4日(現地時間)のオープン戦でメジャーのマウンドに立ち、圧倒的なポテンシャルを証明した。直球は98〜99マイル(158km前後)を記録し、特に決め球のスプリッターは全米の専門家を唸らせた。

 MLB公式サイトは、佐々木のスプリッターの特異性を示す3つのデータを紹介している。

 まず第1にピン量(ボールの回転数)の少なさ。昨シーズンのMLB平均スプリッターの回転数は1302回転/分だったのに対し、佐々木のスプリッターはわずか500〜600回転/分。これはナックルボールに匹敵する低回転であり、そのため打者の手元で急激に沈み込む。

 第2に落差の大きさ。投手の手元からホームプレートまでの沈み幅(重力の影響を含む)は平均43インチ(約109cm)で、昨季MLBで最も変化量の大きかったスプリッター(41インチ)をも上回る。まるでテーブルから転げ落ちるような軌道だ。

 そして第3に横の変化。通常、スプリッターやチェンジアップは投手の腕側(アームサイド)に変化するものだが、佐々木のスプリッターは左右両方向に動く。左打者に対してはグラブ側へ最大6インチ(約15cm)カットし、右打者には腕側へ7インチ(約18cm)も動いていた。ドジャースのデーブ・ロバーツ監督も「朗希のスプリッターは速いし、ある球は真下に落ち、ある球は左へ、またある球は右へ変化する。何をするかわからないから、しっかりと芯で捉えるのが非常に難しい」と絶賛する。

 MLB公式サイトは、これらのデータを総合し、佐々木のスプリッターは、MLBを席巻する次の偉大な球種になると断言している。

 佐々木は千葉ロッテ時代、直球の球速低下に悩んでいたが、このキャンプではドジャースのコーチ陣とともにフォームの改善に取り組んできた。その成果がデビュー戦での好投という形でさっそく表われ、順調な調整ぶりを印象づけた。

「基本的に下半身の使い方です。メカニクス的なところでキャンプ中にラボに入って動きを洗い直して、そのなかでどうやっていこうかというところです。まだ始めて少しですけど、いい方向には来ているので継続して、もう一段階上げていけたらなと思います」と佐々木本人は語る。

 そのポテンシャルの高さから、ナ・リーグ新人王の最有力候補と見なされている。昨年の新人王に輝いたピッツバーグ・パイレーツのポール・スキーンズは、23試合、133イニングを投げ、11勝3敗、防御率1.96だった。佐々木もこの水準を目指すことになるだろう。

 1995年、野茂英雄が新人王に輝いた際はストライキによる短縮シーズンにもかかわらず、28試合に先発し191.1イニングを投げた。改めて近年先発投手の起用法が変わったことがわかる。さらに野茂と石井一久が先発陣として活躍した2003年との比較で言えば、2025年のドジャースの強力打線がどれだけ不調に陥ったとしても、チームOPSで30球団中30位ということはあり得ない。

 ポストシーズンを含め、3人の日本人投手にとって歴史に残る偉大なシーズンとなることを期待したい。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る