大谷翔平が「ウィリー・メイズの後継者」たる理由 メジャー史に残る偉人との共通点 (3ページ目)
【才能を結果に結びつける難しさ】
とはいえ、すべてをやり遂げるまでの道のりは本当に大変である。どれだけ才能に恵まれていようとも、長くメジャーでプレーし、期待に応える結果を残すのはまた別の話だからだ。それは今季、一躍脚光を浴びているレッズの遊撃手、エリー・デラクルスを見ていて思う。
現在22歳のデラクルスも打撃、走塁、守備、送球すべてにおいて、人々を唸らせるプレーを見せている特別な存在だ。『シンシナティ・エンクワイアラー』紙のレッズ担当、ゴードン・ウィッテンマイヤー記者が言う。
「今のメジャーで大谷のような才能を持つ選手がいるとすれば、それはデラクルスだ。まだメジャー2年目だが、サイクル安打も含めすでに4度の4安打試合がある。450フィート(約137m)を超す特大の本塁打も5本打っている。投手をやれば100マイル(160キロ)を出すのも可能だ。去年カットオフ(中継)に入って左中間から150フィート(45.7m)の返球を見せたが、球速はなんと99.7マイル。2023年に野手が計測したものでは最速だった」
脚力も人間離れしている。
「去年7月8日のミルウォーキー・ブルワーズ戦で、5対5の7回、勝ち越しの左前適時打を打って出塁したが、そのあとがすごかった。二盗、三盗を決め、投手が気持ちを落ち着けようと本塁に背を向けて、マウンドに戻るのを見て、一瞬のスキをついて本盗を決めた。今年も6月16日のブルワーズ戦で、二塁ベース上にいたんだが、牽制悪送球で普通は三塁に進むだけだが、一気に本塁に生還した。彼には何度驚かされたことか......」
だが、その才能が確実に結果になって表れるとは限らない。メジャー2年目のデラクルスは、6月22日(現地時間)終了時点で打率.240、101三振はリーグワーストである。ブレーキングボールが打てず、空振り率は45.1%だ。メジャートップの37盗塁はいいが、4月が18盗塁、5月が12盗塁、6月は5盗塁とペースは落ちている。思うように結果が出ない時に、自分を信じて辛抱強く努力を続けられるかどうか。
ウィッテンマイヤー記者は、自身の取材歴から振り返る。
「私はシアトル出身で、1990年代は全盛期のケン・グリフィー・ジュニアを取材していた。ジュニアは19歳でメジャーデビューしたが、すでに野球選手として磨かれていた。
比較すると、デラクルスがまだまだなのは確かだ。しかしながら一つひとつの才能はすごいし、志も高い。実は彼はNBAが好きで、NBAのオフェンスに革命をもたらしたステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)の大ファンなんだ。カリーのようにMLBで最高の選手になって野球を変えたいと真剣に思っている。野球に取り組む姿勢も真摯だ。仮に大谷が人生の90%を野球に捧げているとしたら、彼も80%くらいだと思う。今は経験不足や若さゆえのミスもあるが、いずれ結果が伴ってくるはず。2年後にどうなっているか楽しみだ」
確かなことは、大谷やデラクルスのような特別な才能を持ち、人々のハートを射止めることができるアスリートが成功できれば、野球は人気スポーツとしてより発展していけるということ。2015年11月24日、メイズはホワイトハウスで当時のバラク・オバマ大統領により大統領自由勲章が贈られた。これは行動や業績が、米国社会に多大な貢献をもたらした人物に与えられる最高の栄誉だ。
オバマは「ウィリーのような巨人がいたからこそ、私は大統領選挙に立候補しようと思えた」と明かしている。日本生まれの大谷が、アメリカの国民的娯楽で頂点に立つ。その事実が、米国での成功を夢見る世界中の人々にインパクトを与えるのである。
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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