山本由伸を本気で獲りに行ったヤンキースは「2番手」ですらなかった 「悪の帝国」の異名も過去のもの (3ページ目)
【「悪の帝国」の異名は完全に過去のもの】
もちろん山本を獲得できていたとしても、アメリカで実績のない日本人右腕が目論見通りに活躍できるという保証はない。それでも今オフ、インパクトに欠けたヤンキースの補強策を振り返った時、プライオリティだった山本の獲得失敗はその象徴に見えてくる。
山本のドジャース入団会見時、米大手代理人事務所のワッサーマン社のジョエル・ウルフ代理人は「ジャイアンツはいいリクルートをした。ドジャースが勧誘していなければ、(山本の新天地は)サンフランシスコだったかもしれない」と、少し意外なエピソードを明かした。その言葉を信じるなら、ヤンキースは争奪戦の2番手ですらなかったということ。そんな裏話を聞くと、隔世の感がある。
「ジョージ・スタインブレナー(故人・元オーナー)は、世界最高の選手たちはヤンキースでプレーすべきだと常に考えていた」
ソト獲得後の会見の際、キャッシュマンGMが誇らしげな表情でそう語っていたのが思い出される。
ジョージ・スタインブレナー氏の生前、"ヤンキースが本腰を入れれば、ほとんどのスター選手が手に入れる"とも言える時代は存在した。特に厳しいシーズンを過ごした直後には、そのオフに有力選手を何人も獲得して逆襲を狙うのが恒例だった。しかし時は流れ、ヤンキースは依然として金満の伝統球団ではあっても、もう特別な存在ではなくなった。
昨年12月、12年のメジャーキャリアを過ごし、ヤンキースにも4年半在籍して引退したザック・ブリットンのこんな言葉は誤りではない。
「オリオールズでプレーしていた頃、ヤンキースは圧倒的だった。それが信じがたいことに、(今では)『ヤンキースではプレーしたくない』という選手がいる。ヤンキースと対戦する選手も、『もう以前と同じではない。(ニューヨークは)恐るべき場所ではなくなった』と言っている」
過去2年、ジャッジと再契約し、ソトの獲得は果たしたが、ヤンキースはもうマーケット全体をコントロールすることはできなくなった。
ジョージ・スタインブレナー氏の逝去、「贅沢税制度」の導入、他の大富豪オーナーの登場など、さまざまな要因があるだろう。いずれにせよ、最近はめっきり使われなくなった"悪の帝国"という形容がもはや過去のものであることを、あらためて痛感する今オフの動き。ヤンキースがメジャー最多の27度という優勝回数をさらに増やすことが、簡単ではない時代がしばらく続きそうな気配が漂っている。
著者プロフィール
杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)
すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう
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