イチローは現役時代と変わらぬ姿。キャンプ地の「遊び」で見た打の原型 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Taguchi Yukihito

 遠征組のバスが出て、やがてグラウンドには誰もいなくなる。イチローはバットを持って、こう言った。

「じゃあ、ちょっと打つか」

 ちょっと待ってくれ。

 この姿も、選手そのものじゃないか。引退したはずなのに、イチローはバッティング練習をするのか。やっぱり現役時代と何も変わっていないじゃないか。

 ケージを独占して、イチローが打ち始めた。

「フンッ」「グワッキーン」

「フンッ」「グワッキーン」

 イチローがバットを振るたびに、腹の底から絞り出すような唸り声が洩れる。そしてけたたましい打球音が響き渡った。近くで見ると、カベをつくるための右足がいかに我慢して踏ん張っているのか、バットがどれほど身体の近くを通ってボールを線で捉えているか、イチローの細いバットがどれほど強くボールを叩き飛ばしているか、といったことが微に入り細に入りよくわかる。10本、20本、30本とイチローは早いテンポで打っていく。

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