田中将大は「観る力」がケタ違い。「勝てる」礎は中学時に築き上げた (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Okazawa Katsuro

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 いざマウンドから投げると、ストレートは力強く、大型投手のわりにコントロールも安定していた。2年から主戦投手となっ一方で、投げない日は捕手として試合に出場した。

 田中が宝塚ボーイズに在籍した3年間、主要大会を中心にかなりの試合を見た。なかでも、田中がのちに「あの試合で僕は変わりました」と振り返った2年夏の県大会決勝も観戦。1点を追う最終回、二死満塁のチャンスで打席に入った田中は、中途半端なスイングでライトフライに倒れゲームセット。先輩たちの夏を終わらせてしまった悔いは、田中のなかに深く残った。

 当時の田中は、大型捕手としても、最速136キロを投げる投手としても魅力が詰まっていた。ただ、今の姿を連想させるほどではなく、高校進学についても各校が争奪戦を繰り広げるということはなかった。

 それでも中学での3年間が、"野球人・田中将大"の基礎を築いたのは間違いない。楽天に入団してしばらくしてから、田中に取材する機会があったのだが、その時「中学時代がなかったら、今の僕はありません」とはっきり語っていた。

 着実な成長を遂げていった中学時代の田中について、忘れられない思い出がある。田中が中学3年に上がる春のことだ。ある雑誌の特集で田中を取材した時だ。テーマはカーブについてだったが、おそらく田中にとっては人生初の取材だった。

 取材当日、練習グラウンド脇にあるブルペンで田中のカーブをしっかり見たあと、話を聞いた。緊張しているだろうと思い、雑談のような感じで気楽に話に入ったところ、田中の発する圧倒的な雰囲気に気圧(けお)された。

 これまで何人か中学生を取材したことがあるが、普通はテンションが上がるか、恥ずかしがるか......のどちらかである。しかし田中は、ニコリともせず、無駄なことは一切言わず、それでいて伝えるべきことは自分の言葉でしっかり伝える。

 取材の最後に「ピッチングで大事にしていることは何か?」と聞くと、田中は表情を一段と引き締め、「気持ちです」と即答した。投手・田中の肝と言える一番の武器を、この時すでに身につけていた。相手にも己にも負けない気持ちの強さ。この気持ちや意識というのは、中学生を指導する奥村が最もこだわり、伝えてきたものだ。

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