イチロー、打撃投手はじめました。新ルーティンに込められた深い意味 (2ページ目)

  • ブラッド・レフトン●文 text by Brad Lefton
  • photo by AP/AFLO

 イチローがフロントの一員だということは、あくまで役職だけの話である。選手として27年間こなしてきたルーティンは何も変わっていない。

 遠征のときは約3時間前、ホームのときは4時間前に球場入りし、ロカールームで着替えを済ませ、室内ケージでバッティングを行なう。それが終わってから全体練習に臨む。

 ヒューストンのときも、打撃投手を終えるとすぐにバットを持ち、室内練習場へと向かった。野手としてのルーティンを行なうためだ。

 ルーティンといえば、マリナーズが勝った際、マウンド付近で選手たちが輪をつくり、勝利のハイタッチをするのだが、イチローがベンチから飛び出し、歓喜の輪に加わるシーンはすっかり見慣れた光景になった。

 そうした日々のルーティンは変わっていないが、試合中、イチローはベンチにいない。詳しく言うなら、ベンチに入ることができない。なぜなら、イチローはアクティブ・ロースター(25人枠)に入っているわけでもなく、コーチでもないからだ。

 だからといって、クラブハウスでくつろいでいるわけではない。来季に向け、コンディションを整えていかなければいけないイチローは、試合中も常に体を動かしている。実は、これが打撃投手デビューへとつながったのだった。

 フロントの一員になったとはいえ、イチローはベンチスタートだったときと同じように、3回と6回に室内の打撃ケージに向かい、バッティングを行なう。本拠地のセーフコ・フィールドで試合が開催されるときは、このほかにも初動負荷の特殊マシン(B.M.L.Tカムマシン)でトレーニングもこなす。

 また、セーフコ・フィールドには2つのケージがあり、試合が始まると1つが空くので、イチローはそこを使い、約200球の投げ込みも日々のルーティンに加えた。

 この投げ込みは、ただ体を動かすためのものではない。イチローは次のように語る。

「ここ(指先)の感覚で、(ボールが)どこにいくのかが決まるので。それは野手のスローイングと同じことですよね」

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