イチロー、打撃投手はじめました。
新ルーティンに込められた深い意味
イチローがまたしても記録をつくった。
とはいっても、これまでのように数字として残るようなものではない。それでもメジャー史上初の出来事であるのは間違いない。
6月5日、アメリカ・テキサス州ヒューストン。この日、シアトル・マリナーズの早出練習で打撃投手としてデビューしたイチローは、その後、チームの全体練習に参加した。
今年5月にマリナーズの会長付特別補佐に就任したイチロー 早出練習では3人の選手に対して約150球を投げ、それから約2時間後に行なわれた全体練習に参加。ストレッチ、キャッチボール、外野でのダッシュ、守備練習、そして打撃練習など、フルメニューをこなした。
メジャーの歴史を振り返っても、ピッチャーとして打撃練習に参加し、それから自身のバッティング練習をした選手はいなかっただろう。
5月2日にマリナーズが発表したイチローの"会長付特別補佐"就任で、「事実上の引退じゃないか」と心配するファンは多かったに違いない。だが、このヒューストンでの練習を見ると、来年のスプリングキャンプに選手として参加する意気込みが伝わってくる。
試合前の練習はテレビ中継されないし、球場の開門時間までに終わることが多いため、ファンはその姿を見ることはほとんどできない。もし、今のイチローの練習を見ることができたら、きっと勇気づけられるだろう。
今年、アメリカは異例の長さで寒い日が続いたが、ようやくいつもの暖かさに戻った。それと同時にイチローのコンディションも上がってきた。バッティング練習では、美しい弾道でスタンドインすることが日常茶飯事になってきた。
打撃投手デビューを飾った日も、イチローはライトスタンド2階席に打球を飛ばして打撃練習を終えている。
今シーズン初めてイチローのバッティング練習を見たというアメリカ人のある記者は、驚きを隠せなかった。
「あれだけスタンドに打球が飛ぶと、(ボール代だけで)球団は赤字になっちゃうんじゃないか。彼は今、フロントの人間だろう。チームの経費を考えないと(笑)」
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