イチローが「勝敗に関係なく打ちたかった」シアトル凱旋弾への想い (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Getty Images

 あれから5年。

 マリナーズはその間、すっかり顔ぶれが変わり、イチローと一緒にプレーしたチームメイトはフェリックス・ヘルナンデス、カイル・シーガー、岩隈久志の3人しか残っていない。入れ替わりの激しいメジャーでは珍しくないこととはいえ、イチローだってシアトルの人々にとって過去の選手になっていたとしても不思議ではなかった。

 しかし、である。

 イチローがシアトルに残した轍(わだち)は、やはり特別なものだった。

 シアトルの空港からフリーウェイの5号線を北上すると、ほどなくダウンタウンのビル群が見えてくる。セーフコ・フィールドがあるのは、その手前だ。イチローがマリナーズでプレーした11年半、いったい何度、この球場に足を運んだことだろう。だからフリーウェイのどのあたりで右に寄って、どの出口を下りて、どこを曲がれば渋滞に巻き込まれずに球場の駐車場にたどり着けるか、熟知している。まさに、勝手知ったる我が家だ。

 2017年4月19日、午前10時。

 まだ底冷えのする4月の水曜日、つまり平日の午前中の、しかもどんよりとした曇り空からは時折、大粒の雨が降っていた。これほどまでに人を集めるのによろしくない条件が揃っていたというのに、この日のセーフコ・フィールドにはいったい何事かというほどの人が溢れていた。

 彼らのお目当ては、先着2万人に配られるイチローのボブルヘッド人形だった。

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