WシリーズMVP投手が示した
トミー・ジョン手術決別のヒント
ロイヤルズ・青木宣親の悲願を打ち砕いた男、ジャイアンツのエース左腕、マディソン・バムガーナー。圧巻の投球で文句なしのワールドシリーズMVPを獲得した男の投球には、これからのメジャーリーガーが目指す"投手の理想像"が見え隠れした。
バムガーナーのワールドシリーズでの成績は、21イニングを投げ、2勝1セーブ、防御率0.48。バムガーナーの凄さを見せつけられたのが、第5戦での完封劇からわずか3日後の第7戦で救援登板し、5イニングを2安打、無四球、無失点に抑えたことだ。このタフネスぶりにチームメイトの誰もが、「なんてヤツだ。人間とは思えない凄さ。タフすぎる」と最大級の賛辞を贈った。
ワールドシリーズのMVPに輝いたジャイアンツのバムガーナー
その一方で、ジャイアンツの指揮官であるブルース・ボウチー監督には、ワールドシリーズとはいえ、3日で計185球を投げさせたことにメディアの質問は集まった。それでも5年間で3度の世界一を勝ち取った名将は落ち着いた口調で次のように語った。
「1イニングごとに彼に確認したが、『まだ大丈夫。いける。いい感じだ』ということだった。それにしても素晴らしい投球だった」
そしてバムガーナー自身は「もう嘘はつけない。本当のところはちょっと疲れたけどね」とジョークを飛ばしたが、「このような機会を与えられて嬉しい」と、素直に喜びを表現した。しかし、バムガーナーのタフネスぶりはどこからくるのだろうか。
彼の投球はまさに"飄々として淡々"。見ていても物足りないほどの力感で、決して全力でボールを投げ込んでいるようには見えない。メジャーの投手の中には、勢いあまって投球後に一塁側や三塁側に体が流れ、フィールディングに影響を及ぼす投手が多いが、バムガーナーはホームプレートに正対し、すぐさまフィールディング体勢に入る。このバランスの良さが1メートル96センチの巨体を持ってしても機敏な動きを生み、ワールドシリーズ第1戦で青木が放った強烈なピッチャーライナーも難なくさばくことができたのだ。
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