外野手豊富なヤンキースがイチローを絶対に手放さない理由 (2ページ目)
次に挙げたいのは、イチロー選手の「スピード」です。もともと、ヤンキースは幾多のホームランバッターを輩出し、パワー重視の攻撃をウリとしているチームです。ただ近年、パワーだけではワールドシリーズを制することが難しくなってきました。2010年と2012年のサンフランシスコ・ジャイアンツ、2011年のカージナルス、そして昨年のレッドソックスと、いずれもスピードを重んじたチーム作りで世界一に輝いています。ヤンキースも2011年にア・リーグ3位の147盗塁をマークし、スピードも兼ね備えたチームを作ろうとしました。しかしその後、盗塁の数字は下降気味。昨年3度目となる盗塁王に輝いたエルズベリーを獲得したのも、その流れに歯止めをかけたいからでしょう。
その点、2001年のメジャーデビューから13年連続で20盗塁以上を記録しているイチローは、チームにとって魅力的な存在です。昨年も20盗塁をマークするなど、40歳という年齢をまったく感じさせません。昨年のチーム盗塁数(115個)の割合からすれば、イチロー選手の比重は大きいと思います。スピードというのは、盗塁だけでなく、バントやエンドランなどの小技も含めた総合的なものを指します。それらに秀でたイチロー選手こそ、レギュラーシーズンの終盤やポストシーズンの大事な局面で生きてくるでしょう。
そして3番目に特筆したいものは、イチロー選手の「バッティング」です。成績が下がってきたとはいえ、昨年、イチロー選手は左投手に対して打率.321をマークしました(対右投手は打率.235)。この左投手に対して高い打率を残している点が、ヤンキースにとって非常に価値があると思います。
イチロー選手と同じ左打者のエルズベリーは、昨年、右投手に打率.328を残す一方、左投手には打率.246しかマークできませんでした。スイッチヒッターのベルトランも、右投手の打率.315に対して左投手は打率.252。そして、左打者のガードナーも右投手に打率.285ながら、左投手は打率.247でした。つまり、イチロー選手以外の3人は左投手を苦手としているのです。
ア・リーグ東地区は強力な左の先発投手が多く、ゲーム終盤も継投策で左打者に対して左投手をぶつけてきます。他球団はヤンキース対策として、左投手を積極的に起用するでしょう。さらにヤンキースは、右打者のバーノン・ウェルズ外野手を戦力外で解雇したので、左投手に対する選手層の薄さは否めません。そういう背景からも、イチローの存在は際立っていると思います。
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