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【夏の甲子園2025】「平和に感謝できる人間をつくりたい」 開星・野々村監督が一度は終えた高校野球の世界に再び身を置く意義 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 昭和、平成、令和と時代が移り変わろうとも、伝えたい魂は変わらない。平和を愛しつつも、特攻隊で亡くなった人々の決死の覚悟も後世に伝えたい。だからこそ、「玉砕」というフレーズも自然と口をついたのだろう。すべての人間に理解されることは難しいだろうが、野々村監督の姿勢は一貫している。

【監督の予言はよく的中する】

 主将を務める藤江来斗は、野々村監督についてこう語っている。

「監督さんとは歳が離れていますし、選手とはわかり合えないと思われていると思うんです。でも、自分はそう思っていません。監督さんはいつも選手たちの考えに寄り添って、ケガをしている選手には『肩やヒジは大丈夫か?』と声をかけてくれます。大会での采配もすごいし、甲子園での勝ち方は監督さんしか知らないですから」

 野々村監督がベンチでポツリとつぶやいたことが、次の瞬間に現実になる。そんな感覚派ならではの「予言」もよく当たるという。藤江はこんな内幕を明かした。

「今日も監督さんが『三遊間くるぞ』と言ったら本当にきたり、『ファーストくるぞ』と言ったらゴロがきたり。本当によく当たるので、名将だと思います」

 いずれ近い将来、どんな人間になっていきたいか。そう尋ねると、藤江は少し考えてからこう答えた。

「監督さんのもとで野球ができて、自分は人間として成長できました。開星の人間は、みんな組織を引っ張っていく力があると思います。いつかは社会でも引っ張っていける人間になっていきたいですね」

 勝つたびにたくましく成長していく選手たちと、それを頼もしい眼差しで見つめる老将。衰えたのではない。新しい形になっただけなのだ。

 "やくざ監督"は今も、強い人間を育て続けている。

著者プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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