夏の高校野球・山梨大会で起きた「幻のサヨナラ事件」 当事者が語ったベース踏み忘れの真相 (4ページ目)
もし、この試合で負けていたら、どうなっていたと思うか。そう尋ねると、雨宮は真顔でこう答えた。
「自分が野球をしているかわからないです。少なくとも、しばらくは野球をしたくなかったかもしれないですね」
その後はしばらく、「幻のサヨナラ事件」の余波が続いた。友人、知人からの連絡も殺到した。
「だいたい『よく打ったな!』という反応と、『おまえベース踏めよ!』という反応で半々でしたね」
1週間ほどは、チームメイトからもこの一件をイジられたという。中西からも日常生活のなかで「ベース踏めよ?」と冗談めかして言われたそうだ。
死線を越えた日本航空は準決勝、決勝と勝ち進み、3年ぶり7回目の甲子園出場を決めた。
8月10日の掛川西(静岡)との甲子園初戦は4対8で敗れたものの、雨宮は4打数2安打と気を吐いている。試合後、雨宮はいろんな3年生と抱き合ったあと、感謝の思いを口にした。
「試合に出られない先輩も『しっかり頑張れ』と言ってくれて、サポートもしてくれて、最後までお世話になりっぱなしでした。本当にありがとうございましたという言葉しかありません。まだまだ恩返しが足りないので、来年もまた甲子園に来て、今度は絶対に勝ってリベンジをします」
人間誰しもミスはある。とんでもない失敗を犯したあとにどんな行動をとれるか。雨宮と日本航空の3年生は、その大切さを証明したように思えてならない。
雨宮は最後にこんな思いを語っている。
「野球のことだけじゃなくて、人生での大きな勉強になりました。最後まで諦めないこと、最後の最後まで気を抜いてはいけないことを教えてもらいました」
その横顔には精悍さが宿っていた。この夏、大きな教訓を得た雨宮英斗は、次の一歩を踏み出そうとしている。
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
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