高校野球「下剋上球児・第2章」白山を甲子園へ導いた東拓司監督、昴学園での挑戦 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 東監督は「ドラマをきっかけに本を読んでくれる人が増えたらいいですよ」と笑っていたが、誰も味わったことのない感情を抱いていたのかもしれない。

 東監督と何度かドラマ撮影の見学に行くこともあった。数千人規模のエキストラを動員する大規模な撮影に圧倒されるなか、同行した関係者があきれたようにつぶやいた。

「東は本当にぶっ飛んでるよ。こういう場でも、いつもと何も変わらんもん」

 それは私も感じていたことだった。右を見ても左を見ても大物俳優がいる非日常的な空間であっても、東監督はいつもと変わらず人懐っこい笑顔でふるまった。どんな環境でも結果を残してきた、東監督の本質に触れたような気がした。

 東監督は2023年4月に異動になり、白山から昴学園に移っている。昴学園は生徒のほとんどが寮生活をする異色の公立高校である。校舎がある三重県南西部の多気郡大台町は、町全域が生物多様性の保護を目的としたユネスコエコパークに登録されている。そんな自然豊かな高校の野球部は、16年連続で夏の三重大会初戦敗退と白山以上の弱小校だった。

 赴任当時、東監督はこんな思いを語っている。

「5年前になんで白山が甲子園に行けたのかはいまだにわからないですけど、もう1回行くことで『まぐれやない』と証明したいんです」

 赴任2年目となる今春は、県内を代表する名門・三重高をコールドで倒し、春のセンバツ帰りの宇治山田商を破る快進撃。三重大会3位と結果を残し、夏のシード権を得た。東監督を慕って30人近い1年生が入部し、部員数は60人を超えた。昴学園は1学年の定員が80人の小規模校だけに、その割合は校内で突出している。

 昴学園の若宮一哉校長は苦笑交じりにこんなエピソードを教えてくれた。

「夏の大会に向けて学校で壮行会をやったんですけど、野球部が壇上に上がると途端に(生徒が座っている場所が)スカスカになってしまうんですよ」

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