仙台育英はなぜ毎年のように超強力投手陣を輩出できるのか 140キロ超えはなんと9人! (4ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki

 監督の期待値もあり、自分でも「エースとして」という自覚はある。だが、「俺がやらなければ」といった前のめりな姿勢はない。

 意識が変わったのは、奇しくも3月の練習試合で右手中指を骨折したことだった。その瞬間こそ「終わった」と落胆したが、自分のあとを継いでマウンドに上がった山口の立ち居振る舞いに触れ、安心感を抱いたというのだ。

「それまでの山口は思いきり投げるタイプだったのに、あの時はすごく冷静で、安定感もあって。それを見て『自分がいない間は山口たちが頑張ってくれる。だから、焦らずケガを治そう』って思えました」

 この佐々木からの信頼は、山口の日頃の心がけの賜物でもある。

「視野を広く持て」

 監督から口酸っぱく言われているという山口は、「佐々木がピッチャー陣にいると安心感が全然違いますけど、いないからこそ自分が冷静になってしっかりとやらないといけないと思っていました」と話す。

 最速はチームトップの152キロだが、須江は「(山口は)体が大きいのに、変化球を投げるときに腕が緩まない」ことも評価する。スライダー、スプリット、フォーク、カーブの変化球は、相手バッターからすれば見極めが困難だという。

 193センチの長身を生かす左足を高く振り上げるピッチングフォームは、よくロッテの佐々木朗希と形容されるが、本人は否定する。

「出力を高めるために自分で考えただけで、誰かを参考にしたっていうのはないんですけど、あえて言うなら高橋煌稀さんですかね。一緒に練習をさせてもらうなかで、フォームを細かいところまで見てもらって、アドバイスしてもらえて。それでコントロールがよくなったっていうのはあります」

 高品質の作物は、上質な土から育つ。

 佐々木と山口の軌跡だけでも、仙台育英が築き上げたものに説得力がある。

 整いつつある強固な布陣。須江は「あくまでもおぼろげながら、ですよ」と念を押しながら、手応えを打ち出す。

「ピッチャーだけは、甲子園でも戦えるレベルまでには上がってきたかな」

 この夏の宮城大会では、初戦(2回戦)で松島を15対0。3回戦でも宿敵・東北に2対0で勝利するなど、2試合連続完封勝利。今年もまた、仙台育英の投手陣がたしかなインパクトを与えていることは間違いない。

著者プロフィール

  • 田口元義

    田口元義 (たぐち・げんき)

    1977年、福島県出身。元高校球児(3年間補欠)。雑誌編集者を経て、2003年からフリーライターとして活動する。雑誌やウェブサイトを中心に寄稿。著書に「負けてみろ。 聖光学院と斎藤智也の高校野球」(秀和システム刊)がある。

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