指名漏れからの再スタート 高校通算62本塁打のスラッガー・真鍋慧が新打撃フォームで挑む大学野球 (2ページ目)
【一塁からセンターへコンバート】
真鍋にとって大きな変化があったのは、打撃フォームだけではない。ポジションが高校までの一塁手から中堅手にコンバートされたのだ。
試合前のシートノックではドラフト上位候補の渡部聖弥、主将の吉岡耶翔(やまと)と並んで中堅のポジションに入った。フライをポロリとこぼすシーンも見られ、ぎこちない動作も目についた。だが、富山監督は「センターのほうが合っている」と見ている。
「足が速いし、肩が強い。それに、外野はボールが長く見られて、真鍋に合っているように感じました。ファーストやサードでも見ましたが、センターがいいだろうなと」
広陵の3学年先輩にあたる渡部の守備を見て、どんな感想を抱いたのか。そう聞いてみると、真鍋はこう答えた。
「聖弥さんはスローイングがすごいし、一歩目の速さが全然違うので見習っていきたいです」
最後に、失礼を承知で聞きたいことがあった。
大観衆で埋まった華々しい甲子園球場と、閑散としたスタンドの南港中央野球場。そのギャップを感じることはなかったのか、と。
真鍋は決然とした口調で「それは全然関係ないです」と否定した。重ねて、こんな環境ということを覚悟していたのかと聞くと、真鍋はこれも否定した。
「(球場の雰囲気は)全然わかっていなかったし、試合を楽しみにしていました」
その後、渡部に真鍋のコメントを伝えると、渡部は後輩に思いを馳せながらこんな感想を語った。
「高校時代とは背負っているものが違うので、それ以上にプレッシャーを感じていると思うんです。『4年間でプロに行かないと......』という思いがありますし、甲子園以上のプレッシャーがあるんじゃないですか」
過去との決別、地方球場からの反撃......。そんなエモーショナルな心情を真鍋は持ち合わせていない。とはいえ、ドラフト指名漏れの悔しさが癒えることはないはずだ。
稀代の大砲は前に進むため、変化を恐れずに挑戦している。
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
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