佐々木麟太郎のスタンフォード大進学は「あっぱれ」 OBのマーティ・キーナートが同校の学業やスポーツ文化などを解説 (4ページ目)

  • 永塚和志●取材・文 text by Nagatsuka Kaz

【"麟太郎パターン"は今後増えていく?】

―― 過去には佐々木選手の高校の先輩でもある大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)、菊池雄星(トロント・ブルージェイズ)など、トップクラスの選手が高校卒業直後に日本のプロ野球を経ずにメジャーリーグへ行こうとしていましたが、今回の佐々木選手はアメリカの大学へ行くというまた異なる道を選びました。これは日本の野球界にとってどういった意味を持つことになると考えますか?

「これもひとつの方法ですね。NPB(日本プロ野球機構)のシステムではフリーエージェント(FA)になるまでに基本8年かかる(海外FAは9年)。彼は待ちたくなかったんですよ。その気持ちはわかります。

 今の若い選手たちで(アメリカに)行きたいと思っている人たちはいるでしょう。だからこういう"麟太郎パターン"が増えてくる可能性はあるかもしれないですね」

―― 日本だと時としてアスリートが大学へ行く選択をすると「高校から直接プロへ行けばいいのに」といった声も出てきて、大学で高等教育を受けられるという視点があまりないように感じます。そこを踏まえて今回の佐々木選手の、スタンフォードへ進むという選択についてはどう思いますか?

「あっぱれですよ。本来は、両方(スポーツと学業)をやるべきなんです。日本語で『二兎を追う者は一兎をも得ず』ということわざがありますが、ナンセンスなフレーズなんですよ。人間には能力があって、たくさんのことができるんです。

 ボビー・ブラウンさん(故人、スタンフォード大出身)はヤンキースの三塁手をやりながら医学を勉強し、(選手生活が)終わってからは世界的に有名な心臓手術のスペシャリストとして25年間活躍しました。その後はアメリカンリーグの会長にもなりました。文武両道なんです。やろうと思えば両方できるんです。

 日本には『一筋』であることについての美徳がありますが、こだわりすぎですね。だから麟太郎くんにはちゃんといい教育を受けてほしいです。麟太郎くんが途中でMLBに行ったとしても、その後でスタンフォードに戻って卒業はできますから」

スタンフォードで後輩2人と野球観戦するキーナートさん(中) 写真/本人提供スタンフォードで後輩2人と野球観戦するキーナートさん(中) 写真/本人提供

【Profile】マーティ・キーナート(Marty Kuehnert)/米カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。スタンフォード大・政治学部卒業。同大では2年生時まで捕手として野球部に所属した。同大在籍中の1965年、慶応大学へ特別交換留学生として初来日。以来、太平洋クラブライオンズ(現・埼玉西武ライオンズ)で営業開発促進室室長や、米マイナーリーグ(2A)バーミンガム・バロンズで共同オーナー兼現地球団社長、東北楽天ゴールデンイーグルス初代GMなど、日米のプロ野球球団に関わる。その他、スポーツエージェントやスポーツジャーナリストとしても活躍してきた。現在は東北楽天ゴールデンイーグルスとBリーグ・仙台89ERSのシニアアドバイザーを務める。

プロフィール

  • 永塚和志

    永塚和志 (ながつか・かずし)

    スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社)があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社)等の取材構成にも関わっている。

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