見た目昭和な広陵が令和も強豪でいる要因は何か 大正時代に優勝もした古豪の「考える力」 (2ページ目)

  • 元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 30年以上の指導者経験を持ちながら、選手やコーチ陣の意見を尊重する。

「僕が何か言うと命令調になるので、選手と部長、コーチでうまくやってもらっています」

【今年のチームは大人】

 初戦で監督として甲子園通算38勝(歴代9位)を挙げたが、自らの手腕を声高に話すことはない。

「ひとり、ふたりの力で野球は勝てません。もちろん、監督だけの力でも絶対に無理です。選手のなかに中井の考えを理解してくれる人間がいるとありがたい。監督の言葉を補ってくれる部長、コーチがいないと、組織としては成り立ちません」

 監督は選手を信じ、部長やコーチに任せるところは任せる。

「ほかの人から見たらおかしいと思われるかもしれんけど、広陵には絆というか、熱いものがあるんです。広陵の人間にしかわからん"血"みたいなものが」

 どれだけ戦力を高く評価されても、エースや4番打者がふんぞり返っているチームは、ピンチになった時に脆さを露呈するものだ。広陵には1年生の時からクリーンナップに座る真鍋や、高尾響、只石貫太の2年生バッテリーなど実力者が多いが、彼らはそんな素振りを見せることはない。

「ウチには『オレがレギュラーじゃ』みたいに偉そうにする選手はひとりもいません。今年のチームは大人ですよね。マネージャーや控えの選手を本当に大事にしてくれるんで。一番大事なことじゃないですか。そうじゃないと高校野球じゃないと僕は思っているんです。一番しんどいのは、3年間、本気で控えをやりきること。1000本ノックを受けるとか、走り込みをするとかよりもずっと大変です。ありがたいことに、控えの選手を大事にすることがチームとして浸透しています」

 次戦の相手が「エンジョイ・ベースボール」を標榜する慶應となり、記者から「慶應は長髪ですが?」と聞かれた中井監督は笑いながらこう答えた。

「僕は選手に『髪を短くせぇ』とは言ってないんですよ。選手たちが『広陵の伝統を僕たちが変えるわけにはいきません』と言う。広島大会で優勝したあとにみんなが短くしたんで『なんで?』と聞いたら、『勝ち進んだら散髪に行くことができんので』と。なるほど、と思いました(笑)」

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