花巻東・佐々木麟太郎の逆方向へのヒットに見た「ブレない打撃の原点」とは (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 佐々木の打席から、余計な気負いが感じられなかった理由が理解できたような気がした。「オレが打たなければ負ける」ではなく、仲間に任せるところは任せ、自分は自分にできる役割に徹する。それが結果的に勝利に近づき、自身にとっても最適なパフォーマンスにつながる。佐々木はそう信じているのだろう。

【チームの勝利のために戦う】

 それは守備に関するコメントでも感じとれた。5回表、花巻東の2年生右腕・小松龍一は打者13人をパーフェクトに抑えていたが、一塁右のゴロを佐々木が弾いて初ヒットを許してしまった。

 この場面について聞くと、佐々木は「食らいついたんですけど、ちょっと足が引っかかって」と苦笑しつつ、こう続けた。

「自分としては迷惑をかけた部分はあるんですけど、みんなに助けられながらやらせてもらっているので。仲間に感謝することばかりですね」

 並の精神力の持ち主なら押し潰されても不思議ではない。そんな修羅の世界に佐々木は立っている。野球ファンからの応援や批判の声、野心的な声を引き出そうと誘導してくるメディアの取材。それらを一身に浴びる佐々木にとって、「チームの勝利のために戦う」ことは自分を守る防波堤なのだ。

 今夏の甲子園を順調に滑り出したかに見える佐々木だが、不安要素もある。今夏の岩手大会でも背中の違和感を訴えて先発を外れた試合があったように、絶えず体調面で不安を抱えながらプレーしている。

 現時点での体調を尋ねると、佐々木の答えは今までになく回りくどくなった。

「自分自身、体にかかる負担はみんなより大きいと思っているので。その意味でいえば練習量を含めて体のことを考えながらやれているので、状態としては悪くはないのかなと考えています」

 大事な大会中であり、選手自ら「万全ではありません」とは言いにくい状況にある。宇部鴻城戦ではスタンドからどよめきが起きるほどの猛烈なフルスイングをしており、試合でプレーするのに支障がない状態ではあるのだろう。

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