控え野球部員の晴れ舞台「ラストゲーム」が持つ2つの意味 山梨学院は春夏連覇へ一丸

  • 元永知宏●文・写真 text & photo by Motonaga Tomohiro

 ここ数年、ベンチ入りできない3年生のための試合が、最後の夏の大会前に各地で行なわれている。補欠に甘んじるしかない選手の最後の勇姿を見るために、家族が球場に集まってくる。控え選手にとっての「晴れの舞台」──。

 引退試合「ラストゲーム」を企画・運営しているのが、一般社団法人応援プロジェクトの設立者である塩見直樹氏。彼が初めてラストゲームを企画したのが2018年。6回目となる今年は、センバツ優勝の山梨学院とライバルである日本航空との間で行なわれた(コロナ禍で夏の甲子園が中止になった2020年にも開催)。

引退試合を終え、自筆のメッセージ入りのボールを親に渡す山梨学院の選手たち引退試合を終え、自筆のメッセージ入りのボールを親に渡す山梨学院の選手たちこの記事に関連する写真を見る

【ラストゲームを行なう2つの意味】

 1981年夏の甲子園に、國學院久我山(東京)のメンバーとして出場した経験を持つ塩見氏は言う。

「強豪と言われるチームの内側も見てきて、試合に出ることができない補欠の選手たちの気持ちはよくわかります。自信満々で高校に入ってきたのに、鼻も心も折られ、野球を嫌いになっていく選手をたくさん見てきました。

 最後の夏を目指して冬のつらい練習に耐えても、6月か7月にはベンチ入りメンバーから外れる。現実に直面したそのショックたるや、相当なものだと思います。だから、夏の大会が始まる前に、たった1日だけでも、補欠の選手にレギュラーと同じ思いをさせてあげたいと思ったのです」

 6月27日に行なわれた「ラストゲーム」。序盤からリードを奪った山梨学院が8回にも2点を加え、4対0でゲームセット。

 この試合で使うボールには、<ラストゲーム 山梨学院VS日本航空>という文字が入っていた。試合後には両校のベンチ前に選手と親が一列に並び、控え選手たちが自筆のメッセージを入れたボールを渡す。周囲に聞こえる声もあれば、当人同士にしか聞きとれない言葉もあった。

 泣きながら抱き合う親子を見ながら、山梨学院の吉田洸二監督はこう言った。

「ラストゲームにはふたつの側面があります。控えに回る3年生にとって、次のステップに進むために心を整理する時間。保護者の方にとっても同じですね。ひと区切りつけて、次に進むための大事な大事な試合です。

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