2023年ドラフト戦線の隠れた実力派 150キロ左腕の桐蔭横浜大・古謝樹は、球速よりも「球質」で勝負する (2ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 それでも、古謝は代表メンバーから漏れている。納得できない思いもあったのではないかと聞いてみると、古謝は意外な感想を口にした。

「あの時はちょっと力任せで、自分のなかではよくなかったので。相手が格上すぎて怖がっていて、『打たれてもいいや』くらいの感覚で投げていました。変化球は1球くらいしか投げていませんし、持ち味を出せなかった思いが強いです」

 合宿ではドラフト1位でプロに進んだ菊地吏玖(現ロッテ)、曽谷龍平(現オリックス)から試合前の準備や試合の入り方についてレクチャーを受けた。古謝は「すごい選手とコミュニケーションがとれて、意識が変わった」と振り返る。

 冬場はストレートの質をさらに高めるため、体づくりに取り組んだ。

「去年の関東大会(横浜市長杯)でストレートの逆球を打たれて負けたので。ストレートの質、キレを高めることを目標に掲げていました。1年の頃からウエイトトレーニングも積んできて、ストレートで空振りやファウルをとれることが増えました」

【悪いなりに投げるテクニック】

 4月22日、関東学院大との1回戦に先発した古謝は、立ち上がりから毎回ランナーを背負う苦しい投球だった。被安打は8、与四死球は6に上った。それでも関東学院大の得点を1にとどめ、ピンチの場面ではキレのある快速球を軸に三振を奪って切り抜けた。最終的に奪三振数は13を数えている。

 9回を完投して球数は170球に達したというのに、試合後の古謝は涼しげな様子だった。

「体は結構張ってますけど、9回を投げたわりには疲労感はそんなにないですね」

 桐蔭横浜大の齊藤博久監督は「悪いなりに苦心して投げてくれた」と古謝をねぎらった。この「悪いなりに投げる」テクニックもまた、古謝が進化したポイントのひとつなのだ。古謝は言う。

「毎日、『今日の自分は何が足りないか?』を考えて調整しています。今日は体幹が足りないと感じたらバランスボールを投げたり、腕の振りが遅いと感じたらネットスローをしたり。その日のコンディションに合わせて、調整できるようになりました」

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